第7章 明智光秀【アケチーミツヒデ】
壁に背を預けたままずるずると屈み込んで、乱れた呼吸を整える。
顔を上げ虚ろな視線を漂わせる俺の耳に、光秀が『』を淫らに責める声、吐息……
そして二人の分泌液が絡まって発てる水音が否応無しに侵略して来た。
『』は光秀を受け入れている。
そうであれば光秀を止める気は更々ねえ。
光秀の紡ぐ言葉は、動く手足は……俺そのものだったから。
だから………
自分の髪をくしゃっと握って、俺は光秀に自分の我儘を告げようと決めた。
直に陽が昇り始める頃になって、光秀は漸く『』を手放した。
穢した『』の身体を丁寧に清め、新しい褥に寝かし付ける光秀のその様は徹底した慈愛に溢れている。
その行為に俺の顔も自然に綻んだ。
『』が眠り、光秀が天主を出ようとした所で俺は張り出しから声を掛けた。
「今晩は。
いや、もうおはようかな?」
三ツ者すらが慄く程に、冷徹鋭利だと言われる明智光秀。
そんな男と自分が差しで対峙しているこの状況に身震いがした。
でもそんな愍然たる自分を見せる訳にはいかねえよな。
臓腑が引っ繰り返りそうな精神抑圧を感じながらも、俺は必死に平静を装い光秀に語る。
どうやら俺の存在は信長から聞かされていた様で、光秀は疑う事無く告げた内容を受け入れてくれた。
然もあの明智光秀に頭まで下げられちまって……迂闊にも俺、歓喜で小躍りして仕舞いそうだったよ。
そんな高揚した気持ちの勢いを借りて、俺は光秀に懇願したんだ。
これから先、必ず『』を護って欲しい……って。
あんたになら出来んだろ?
俺と《同じ》あんたになら……
あんただから……
「あんた、だからだ。
あんたが明智光秀だから……頼む。」
気が付けば俺の口からは、他愛も無くあっさりと本音が紡ぎ出されていた。