第7章 明智光秀【アケチーミツヒデ】
だが、何故だ?
何故、明智光秀が単独で十参號の仇を討つんだ?
今、明智光秀の中で『』という存在がどう変化しているのか……考えてみる。
俺に取って十参號は『妹』だった。
明智光秀に取って『』は『主君の寵姫』………
どれだけ渇望しても己の手には入らない存在。
………俺と明智光秀は、《同じ》なのか?
その後、何かぞわぞわとした得体の知れない嫌な予感を感じながら過ごしていたが、その予感が最悪の形で的中した。
件の小国が挙兵しやがったんだ。
何を血迷ったのか、殲滅覚悟で武田へ向かって来やがる。
………然も、織田の名を騙って。
当然そんな姑息な策に引っ掛かるような信玄様じゃねえ。
只、宿敵である信長の名を騙った事は信玄様の憤怒を買うには充分だった。
武田としては真っ向から迎え討つ気で準備を整える。
戦闘能力だけなら織田よりも上である赤備えが、あんな小国相手に負ける筈もねえ。
軽く遇って終いだ。
だが信玄様の怒りは頂点に達し、其奴らの肉一片骨一欠片も残してやる気はねえ様で、準備万端の為に三ツ者も駆り出される事に為った。
そして意外な事に、その諜報活動の中で俺は信長を救う事となる。
本当、死ぬ気で向かって来る奴等は何を為出かすか分かんねえな。
まさか信長を攫うなんてさ。
まあ徹底的に馬鹿じゃ無かったって事は認めてやるけど、だからってそれを黙って見てる程此方も馬鹿じゃねーから。
直ぐにでも信長の首を落としそうな勢いの奴等から、三ツ者総出で逆に攫ってやった。
信玄様の指示を仰ぐ時は無かったから俺の独断だったんだけど、三ツ者達も皆同じ存意だったんだ。
敬愛する主君、信玄様の宿敵織田信長がこんな所で死んで良い訳がねえ…ってな。
信長に引導を渡すのは、信玄様じゃなきゃならねえ。