第6章 織田信長【オダーノブナガ】
だけど、こうなっちまうと……今更顔出しにくいよな。
睦事を覗いてた方も覗かれてた方も、気不味いって言うかさ……。
いや、信長はそうでもねーかもしれねえが、俺は平常心ではいられねえよ。
だから信玄様から預かった品は勝手に置いておく事にした。
信長ならそれなりの経緯はちゃんと悟ってくれるだろうしな。
この反物が信長の手に渡って、それを『』が身に着けてくれる……
信玄様も俺も、それだけで充分なんだから。
天主の張り出しに荷を置いて、早々に退散しようとしたのだが、やはり流石は信長だ。
直ぐに其れに気付いて此方に向かって来やがった。
俺は慌てて張り出し下の隙間に身を隠し気配を消した。
俺の頭上で信長が荷を解く音がする。
そして僅かな静寂の後、信長は含み笑いを漏らしながら独り言ちた。
「俺との睦み合いを見ておったか?
………どうであった?
俺は、貴様の願いを満たせておるか?」
本当………あんたには敵わね-。
あっさりと、全部、お見通しなんだな。
もしかすると、今俺があんたの足元に潜んでる事にだって気付いてんじゃねーの?
俺は笑っちまいそうで、同時に泣き出しちまいそうで、息を殺したままくしゃくしゃと顔を歪ませる。