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掌中之珠~イケメン戦国~

第6章 織田信長【オダーノブナガ】


それから俺は信玄様にも真実を語った。

十参號はもう居ない。

『』という女に生まれ変わって新しい生き場所で笑っている、と。

最初っから誤魔化す心算なんか此れっぽっちも無かった。

「十参號を連れ帰れ」という主君の命に背いた事で処罰されるかも…なんて言うのも思い付きゃしなかった。

俺は兎に角、信玄様に知って欲しかったんだ。

俺も貴方も赦されたんだ……

もう自分を責め続けなくても良いんだ……って。

只、十参號だけでなく俺と信玄様をも救う形になったのが、武田因縁の宿敵、織田信長であるってのは唯一の気掛かりだったが。

それでも信玄様は、己の個人的感情で十参號が漸く手にした僥倖を奪うなんて矮小な人間じゃねえのは分かってた。

「捌號の言う事を信じない訳じゃないが、
 どうやっても十参號の姿を自分の目で確かめたい。」

と、唐突に単独で安土へ乗り込んで行っちまったのには正直驚いたけどな。


そして帰って来た信玄様は

「……『』は、信長の事が……好きなんだとよ。」

なんて悪態を吐きつつも、その顔は此れまで見た事が無い程穏やかに緩んでいる。

「ああ、それから……
 信長が捌號との約束を果たすとか言っていやがったが………
 何の事だ?」

笑顔のままそう問う信玄様に向かって、俺は大きく肩を竦め「さあ?」と惚けてみせながら……

自分でも抑え切れずに思い切り破顔して仕舞った。


多分信長に救われっ放しなのが気に入らなかったんだろーな。

信玄様はその後直ぐに贅を尽くした反物を用意し、俺に安土へ届けろと言い出した。

別に態々俺が届けなくても……とは思ったが、もう一度だけ俺に十参號の顔を見せてやりてえなんて親心みたいなもんだったのかもしれねー。

本当の所は分かんねーけどさ、でもそんな主君の心遣いを有難く受け取っておくのも俺の仕事だよな。
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