第6章 織田信長【オダーノブナガ】
『』が知っている男は、あの下卑た連中だけだ、と。
『』は男に愛された経験が無いのだ、と。
ああ、俺は間違い無く十参號を愛していた。
あの夜、愛しくて堪らなくて……大切に、丁寧に、抱いた。
でもそれを信長に告げてどうなる?
俺が愛したのは『』じゃなくて十参號だ。
『』には信長の手で愛される悦びを教えてやって欲しい。
俺との刹那的な行為の記憶など『』には不要だろ?
だったら態々それを信長に知らせるまでもねえ。
『』は信長に愛されたという未来永劫続く女の幸福を手に入れられれば良いんだ。
そう、其れは俺が何よりも望んだ物………
お前はこれから先、ずっと陽の当たる場所で……。
この男にならば一欠片の迷い無く、それを託す事が出来る。
その後、俺の処遇すら気遣う信長に自分の決断を更に確信しながら、俺は『』を置いて信玄様の元に戻った。