第6章 織田信長【オダーノブナガ】
下働きの仕事を卒無く熟しながら、昼夜問わず城内へと潜り込む。
流石に天下の安土城だ。
強固な守備と妙々たる人員に阻まれて匆々容易くは無かったが、それでも俺は何とか十参號の姿を確認した。
だが其処に居た十参號は、俺の知っている十参號じゃ無かった。
それは『』という名の愛らしい幼女だったんだ。
その様を見るにつけ、直ぐにでも攫って仕舞いたい衝動に幾度駆られた事か。
このまま十参號を攫い信玄様の元に戻れば良い……それだけなのに………
そんな俺を押し留めたのは『』の笑顔だった。
忘れもしない、まだ三ツ者と成る前に見せていた屈託の無い弾ける様な笑顔。
それが今、此処に在る。
その後、探れば探る程に判明したのは『』が皆に愛されているという事実。
あの酷過ぎる疵を献身に手当てしたのは徳川家康だと分かった。
独眼竜は常に美味い物を食わせてくれて、石田三成は『』を成長させようとしている様だった。
どうやら明智光秀は『』の過去を色々と探っていたが、それは『』を過去の柵から解き放ってやりたいというのが所以みてえだ。
それから……『』を躾け、時には叱り、それでも可愛くて堪らないと許りに慈しむ……
そう、俺がずっと十参號にしてやりたかった事……
その行為を惜しみ無く注ぐ兄以上に兄然とした豊臣秀吉が居た。
じゃあ信長は……そう考えてみた所で、この家臣達の『』への対応を許しているのであれば、もう信長の想いなど探るまでもねえ。
俺は一つの決心を固め、その決心を一層強固にする為に信長と差しで語りたいと思ったんだ。