第6章 織田信長【オダーノブナガ】
安土に辿り着き、先ずはその活気振りを目にして素直に驚いた。
無駄な関所を廃止し各国からの人の流れを制限せず、好きな様に商売をさせる。
不必要な領主への税や取り決め等が無くなれば、必然的に人や物資が集まり国は豊かに為る。
そうなりゃ細かな諍い事や不貞を働く輩も出て来るだろうが、そこは織田信長の元に集った有力な武将達が目を光らせ、確りと統率している様だ。
こんな前代未聞な政を思い付き、そして実行に移す。
俺が言っちゃいけねー事だと分かってはいるが………
やはり武田は『織田には到底敵わない』……そう思わざるを得なかった。
だが今は何よりも十参號の存在を確かめる事が最優先だ。
俺はこれまでの手練手管を駆使し、あっさりと最下層の下働きとして安土城への潜入に成功した。
当然城主である信長や、その家臣達を目にする機会は無かったが、それでも人の口に戸は立てられねえ。
下働き連中の間でも「最近信長様が戦帰りに拾って来た女に執心らしい」という噂話で持ち切りだった。
その女ってのが十参號に違いねえと俺は確信しつつ、「信長が執心」という言葉に引っ掛かる。
十参號の見た目は筆舌に尽くし難い程、酷い状態だった筈だ。
そんな女を連れ帰り、信長はどうしようと思ったのか?
もしかすると………十参號は再び嬲られているのか?
此処には信長を始め、その忠実な家臣である智将豊臣秀吉、
奥州筆頭の独眼竜伊達政宗、
勇猛果敢な三河軍を統べる徳川家康、
織田軍の軍師と言っても過言ではない石田三成……
それから俺達三ツ者ですらが戦く程、冷徹鋭利だと囁かれている不気味な存在……明智光秀。
こんな男達に囲まれて十参號は一体どうなっているのだろう。
俺は自分の持てる術全てで、何とか十参號の状況を探ろうと躍起になった。