第5章 雨露霜雪【ウロソウセツ】
自分でも驚く程の早さで戻ってみれば、もう其処に十参號の姿は無かった。
まだ残って居た男共の会話を盗み聞くと、どうやら一瞬の隙を突いて自力で逃げ出したらしい。
『あれ程の状態で永くは持つまい。
どうせその辺りで野垂れ死んで終いだ。』
と、嘲笑する男共を尻目に俺は十参號を探し始める。
取り敢えず此の近辺に十参號の気配は無い。
覚悟を決めつつ屍を探してもみたが、それも無かった。
………十参號は未だ生きている。
だったら……どう動く?
俺は『三ツ者』として考えてみる。
先ずは本能として甲斐へ戻ろうとするだろう。
だが真っ直ぐには向かわない。
敵に追撃されるのを避ける為に、無関係な方向へも陽動しつつ、自分の存在を誤魔化しながら………
俺の足は自然と此処から一番近い集落へと向かっていた。
その集落は活気という物とはまるで無縁で、貧しい生活を強いられている様だった。
あの十参號を嬲った大名共に散々年貢を搾り取られているんだろう。
俺は流れ者を装って、畑仕事をしていた好々爺にそれとなく此処最近変わった事は無かったかと聞いてみる。