第5章 雨露霜雪【ウロソウセツ】
大した事ではないのだが…と前置きをして好々爺は語ってくれた。
洗って干してあった孫娘の着物が失くなったと、あんな何の価値も無い襤褸の着物を盗むなんて酔狂な奴が居るもんだと笑う。
俺にしてみればそれは何よりも欲していた情報の一つなのだが。
それから………
着物が盗まれた翌日に、この集落に織田信長の一向が立ち寄ったらしい。
戦帰りで、馬に水を飲ませてやって欲しいと願い出たそうだ。
第六天魔王と揶揄される男の来訪に集落中が恐れ戦いたが、噂とは全く違い随分と親和的な印象だったと好々爺は興奮気味に捲し立てる。
しかも馬に井戸の水を飲ませてやっただけなのに、信長の家臣である豊臣秀吉が礼だと言って兵糧として積んでいた米を全部置いていったとの事だ。
本当に有難いと何故か俺を拝む好々爺に礼を言い、俺は集落を後にした。
失くなった着物と、帰還途中の織田信長一向………
「………安土、か?」
俺はそう呟くと、定めた目的地へ真っ直ぐに歩を進めた。