第3章 慧可断臂【エカダンピ】
「………捌號?」
何も言わず何もしない俺に焦れたのか、十参號が潤んだ瞳で俺を見上げて来ても……
そこ迄されても俺はぴくりとも動けない。
「は…ああ……」
十参號の熱い吐息が俺の胸を擽る。
その後直ぐに、十参號は俺の胸を軽く押して身体を離した。
「困らせちゃって……ごめんね。」
そう言って微笑む顔は、まるで泣いているみたいだ。
「こんなの……捌號にお願いする事じゃないって、
ちゃんと分かってるの。
でもやっぱり……
初めて…は、捌號が良かったから……」
ここで十参號は本当に泣いた。
可愛らしくにっこりと笑いながら、ぽろぽろと大粒の涙を零し始める。
「私…今から信玄様の所に行って来るね。
信玄様ならきっと、優しくして下さるだろうから。」
十参號は乱れた帯を手際良く直すと、俺への想いを吹っ切る様に踵を返した。
そして一歩二歩と俺から離れて行く十参號の小さな背中を見つめて………
気が付けば俺の手脚は勝手に動き出していたんだ。