第3章 慧可断臂【エカダンピ】
どくどくと鼓動が早鐘のように打ち始めて胸が痛い。
俺の意識は大きな二つの感情に揺さ振られて朦朧としていた。
お互いの想いが同じであった事で、震える程の歓喜と……
お互いの想いが同じであった事で、震える程の悍ましさ。
「だから……捌號。
………お願い、抱いて。」
掠れた甘い声で俺を強請り、依り一層身を寄せてくる十参號。
何て外道な事を言ってんだ、お前は。
俺はお前の………
だけど、十参號を責められる筈もねえ。
此奴は『それ』を知らねーんだから。
外道なのは俺の方だ。
責められる如きは、俺唯一人。
何度、お前の媚態を想像して己を慰めただろうか。
お前が淫らに悦がり狂う姿を思い浮かべれば、直ぐに果てる事が出来た。
其れだけでは飽き足らず、俺は甲斐の裏町で夜鷹と呼ばれる女を買っては激しく抱いた。
その時だって俺の脳内ではお前の姿形を想像していたよ。
十参號の唇を吸い、十参號の乳房を弄んで、十参號の中に挿っているんだと……。
抱いた女が上げる悦がり声で現実に引き戻されるのが耐えらんなくて、俺はその度に女の口を塞ぎながら性交したんだ。
ああ……自分がどれだけ如何わしくて悍ましかったのか……
お前の想いを知った今、それを更に思い知らされて仕舞う。
そこまで渇求した十参號が抱いてくれと身を委ねているのに、俺は指先一つ動かす事が出来なかった。
………怖かった。
只管に怖かったんだ。