第3章 慧可断臂【エカダンピ】
それで俺の所に来たって言うのかよ?
陸號の言いたい事は男の俺でも何となく理解出来る。
陸號は薄穢い輩共に身を任せなきゃいけねえ時もあるだろう。
不本意であってもその手練手管を駆使して、男の精と情報を同時に搾り取るんだ。
己が穢いと何度も涙を流しただろうな。
思い出すと嘔吐して仕舞いそうな経験だって数え切れねー程だろうな。
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だから………
己の仕事については何も語らず、そんな事になる前に先ずは綺麗なままの自分を好きな男に抱いて貰えって、十参號に言ってくれたんだ。
ああ、正直陸號には感謝するよ。
これならまだ十参號を救えるかもしれねー。
全く……いくら心当たりが無いからって『好きな男』と言われて俺の所に来るなんてさ。
まあでも、他の男の所に行かなくて良かったよ。
まかり間違って信玄様の所にでも行っちまおうもんなら、今頃十参號は確実に信玄様の腕の中だ。
「お前、良く分かんねーまま此処に来たんだろ?」
俺は漸く十参號の手首を手放し、その頭を優しく撫でてやった。
「待ってな。
近い内に信玄様がお前を救って下さるから……」
「分からないけど……分かる!」
俺の言葉を十参號が強く遮る。
………分かんねーけど、分かるって何だ?
俺が小首を傾げてもう一度視線を落とすと、十参號はふわりと俺の胸に身を委ねて来た。
「自分が捌號を好きな事は……
ちゃんと分かってる…から。」