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掌中之珠~イケメン戦国~

第2章 冥冥之志【メイメイーノーココロザシ】


「うん。
 それは俺も考えていた。
 あの娘にはもう……辛いのかもしれないな。」

信玄様のまさかの返答に俺の方が驚いて仕舞う。

そしてそれに驚いたのは俺だけでは無かったみたいだ。

「十参號とは……三ツ者の女か?」

上杉謙信が低い声で信玄様に問い掛ける。

「ああ。
 可愛い娘でね。
 仕事は出来るのだが、一寸弱い部分もあるんだ。」

「ふん……相も変わらずお優しい事だな。
 己の飼っている間諜を無条件で解放してやるなど。」

その言葉に、信玄様は悲し気に微笑んだ。

「俺は飼っているなどとは思っていない。
 間諜であっても大切な俺の家臣だ。
 その家臣が苦しんでいるなら救ってやりたいと思うのは当然だろう?
 苦しんでいる本人も、その苦しむ仲間を救いたいと主君に訴える者も。」

そんな信玄様の言葉に、俺の胸は痛い程に締め付けられた。

それでもまだ納得がいかないとばかりに眉を顰める上杉謙信に向かって、信玄様は揶揄う様に語り掛ける。

「謙信、これが佐助や軒猿衆だったらどーする?
 お前だって俺と同じ事をするんじゃないのか…んー?」

「ふん………もう…良い。」

明白に照れて頬を染めた上杉謙信が視線を反らした時、その隣に居た猿飛佐助の喜悦の感情が俺にも伝わって来た。

………顔は全くの無表情だったけど。


そしてその猿飛佐助が唐突に声を上げる。

「なあ……
 その十参號さんって、幸村が可愛いって言ってた娘じゃないかい?」

「なっ……そんな事、言ってねーし!」

「おっ…そーなのか、幸?
 何だ、幸もちゃんと女性をそういう目で見られるんだなー。
 俺は安心したぞー。」

「だからっ…違うって!
 俺はあんたみたいな女好きじゃねーから!」

「……流石は信玄の家臣だな。」

「謙信様まで…止めてくれよ!」

「素直になったら、幸村?」

「もう佐助は黙ってろっ!」

目の前で繰り広げられる遣り取りに、俺の顔は自然に綻んでいた。

俺と十参號もこういう世界で生きられていたなら……。
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