第2章 冥冥之志【メイメイーノーココロザシ】
俺はそんな想いを抱いて春日山城内の信玄様を訪ねた。
「捌號かー?
遠慮せずに入って来い。」
信玄様の弾んだ声を聞き、俺は静かに部屋へ入る。
任務の最中でもない限り、俺達の方から信玄様を訪ねるなんて先ず有り得ない。
だからまるで兄を頼る様に現れた俺の存在に、信玄様は嬉し気に顔を綻ばせていた。
「どーした、捌號?」
「……………。」
俺は口を噤んで信玄様をじっと見つめる。
何故ならこの場には信玄様だけで無く、上杉謙信とその家臣、猿飛佐助も居たからだ。
当然真田幸村も居たが、彼は武田の人間なので問題では無い。
いくら身を庇って貰っている盟友とは言え、武田以外の人間に聞かせて良い話なのか迷っていた。
そんな俺の考えを信玄様はあっさりと悟ってくれた様だ。
「謙信や佐助の存在は気にしなくて良い。
此奴らに聞かれて困る話など無いからな。」
その言葉に安堵して、俺は重い口を開く。
「十参號の事ですが………」
「ああ……酷い状態らしいね。」
信玄様の顔も悲痛に歪んだ。
勿論信玄様は拾號が囚われた内容については把握している。
その上でその後の結果を自分の所為だと責め立てて、荒んだ十参號の件も知っていてくれたんだ。
俺は言葉を選びながらゆっくりと信玄様に自分の想いを告げた。
十参號をこの湿った薄暗い世界から解き放って、陽の当たる場所へ行かせてやりたい…と。