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掌中之珠~イケメン戦国~

第2章 冥冥之志【メイメイーノーココロザシ】


「なあ、捌號……
 十参號だけじゃなくて、お前も一緒に…っていうのはどうだい?」

信玄様の柔らかく告げられた言葉に鼓動が一つ大きく鳴った。

「俺は……御払い箱って事かよ?」

「ははっ…そんな捻くれるな。」

困った様に笑った信玄様の大きな手が、いつも通りに俺の頭をくしゃくしゃと撫でる。

「捌號は武田に付いてもう何年になる?」

「……十三年。」

「ほら、もう充分じゃないか。
 危険な仕事も沢山させた。
 辛い思いをした事も多かっただろうな。
 もう充分尽くして貰ったよ。
 これからは何処か静かな土地で穏やかに……」

紡がれ続ける信玄様の言葉に身体が震えて来る。

そんな幸福な人生が俺には許されるのか……?

家畜では無く、人として生きても良いのか……?

そんな想いに縋り付きそうになった俺の心を、信玄様の次の言葉が一瞬にして凍らせた。

「十参號と所帯を持って暮らせば良い。」



「それは………出来ね-。」

「何故だい?
 捌號も十参號も満更では無いだろう?
 俺はお前達なら似合いの夫婦になると……」


「それはっ……絶対にっっ……
 …………出来ない!」


膝の上で握った拳をわなわなと震わせ血反吐を吐く様に叫んだ俺に、その場に居た全員が驚いて息を飲む。

含み在る視線を向ける信玄様に向かって俺は誤魔化す様に笑い、俺の事は良いから十参號だけは何とか頼むと頭を下げた。

信玄様は明白に不審気だったけど、それでも何も問い質す事はせず

「分かった。
 少し考えてみるよ。」

と、言ってくれたんだ。
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