第2章 冥冥之志【メイメイーノーココロザシ】
結局……柒號と玖號が戻って来たのは七日後だった。
俺達は家畜と同じだ。
少なくとも俺はそう思っている。
いや、そう思わないと遣り切れないのかもしれねーな。
不要になれば簡単に『処分』という方法を選択して仕舞う事も、自分達を號数という符牒で呼び合う事も。
それでも信玄様が武田を継いで以降は、随分と三ツ者の扱いも改善された。
信玄様は三ツ者相手でも他の家臣と同様に心を砕いてくれる。
どんな時でも俺達に優しく微笑みかけ、俺達の穢い身体を支える様にあの大きくて温かい手を差し伸べてくれる。
それは俺達にしてみれば、在り得ない程に嬉しくて幸福な事だった。
だが、そうであるが故に……俺達三ツ者は態と信玄様と一線を画す様に距離を取った。
信玄様に付いて春日山城に拠を移す事も無く、俺達の本拠は今でも甲斐に置いたままだ。
………怖かったんだ、俺達は。
信玄様の心持に触れると、俺達でも人として生きて良いんじゃねーのかって思って仕舞うから。
信玄様の手を取って同じ場所に立って良いんじゃねーのかって、身の程知らずで贅沢な欲が湧いて仕舞うから。
家畜如きがそんな夢みてーな事、望んじゃ駄目だろ?
だけどもう十参號は限界だ。
『今以上の務め』を負う事に成る前に抜けさせてやりたい。
俺は生涯家畜として生きて行く覚悟は出来ている。
どんなに過酷な務めだって果たしてみせるから、せめて十参號だけは……。