第3章 アネモネ
目を覚ますと、もうあたりは夕暮れだった。さすがに少しだけ冷えてきていた。
「しまった、寝てた…」
ガバっと起き上がると、頭にあたものがパサリとひざの上に落ちる。なんだろう、と手に取ると、赤いアネモネだった。
「アネモネ…?」
「やっと起きたか」
後ろに立っているローがオトハのことを見下していた。
「これ、ローが乗せたのか?」
「あァ、ちょうどいいもんがあったからな」
アネモネ…なんでだろうとオトハが考えていると、ローが隣にきて茶色い紙袋を手渡した。
「…これ何?」
「ピアスだ。ほんとはお前を起こして一緒に行こうと思ったんだがな、起きなかったから今さっき買ってきた」
ほしい、と騒いでいた中で一番まじまじとみていたアクセサリーだった。ローはオトハの仕草をしっかりとみていたのだ。
「なんだよ、うれしいことしやがって…」
恥ずかしそうに顔を落として、ピアスを眺める。黄色い石の小さなピアスだった。
「かわいい…」
「さっさと船に戻るぞ。春は夜が冷える」
「了解、キャプテン」
赤いアネモネをもって、オトハはローの腕に絡ませる。