第13章 ハグの日 *葉月*
『えっと…陸奥?』
彼の背中を叩いても、陸奥は答えてくれなかった
それどころか、余計にあたしを抱きしめる力が強くなった
『陸奥…ちょ、苦しいよ』
「なんでじゃ…」
『えっ…?』
彼の声が耳元で小さく聞こえた
すると、陸奥はあたしの肩を掴んで強引に剥がすと今度はあたしの目をじっと見た
「おんしは、なんでわしのことを見てくれんのじゃ。なんで…あいつばっかり…」
『え…』
陸奥はきっと兼さんのことを言ってるんだと思う
何か言わなきゃと思っていた矢先、陸奥はあたしから手を離した
『あ…、陸奥?』
「おかしなこと言うてすまん。やけんど、わしは負けんきな」
と、それだけ言って廊下の奥へと言ってしまった
負けんきな・・・って、方言だよね?どういう意味なんだろ・・・
シャンシャンシャンシャン!!!
そんなことを考えていたら、本丸中に鈴の音が響き渡った
それが出陣前に召集をかけるための合図だとすぐにわかり、あたしは急いで中庭に向かった
その途中で、国広兄弟の御三方と鉢合わせした
「あっ!冴姫さん!」
『あ、堀川君。山姥切さん、山伏様』
「カカカ!久方ぶりの出陣であるな桜華切殿!!」
堀川君と山伏様はいつも通り愛想よく話しかけてくれるけど、相変わらず山姥切さんとは会話がない・・・
「そういえば冴姫さん、兼さんとは会った?」
『えっ…?』
堀川君にこそっとそんなことを聞かれた。
今日はまだ会えていないから、あたしは首を横に振った
すると堀川君は小さく「ぇ…?」とつぶやいて、少し黙ってから「そっか…」とつぶやいた。
***
「兼さんたら…今日こそはけじめつけるって言ったのに…」
そうやって堀川君がつぶやいたが、山伏様の高らかな笑い声によってかき消されたためあたしの耳には聞こえなかった