第12章 好意
『わぁー、1人で使うの初めてだけどやっぱ広いな~』
広い脱衣所で甚平を脱ぎ捨てて、足早にさらに広い浴場に入り込む。いつも短刀達と一緒に入っていたこの場所がこんなにも広いものだと実感しながら、まずは頭と体を洗いゆっくりと大きなお風呂に浸かる
『はぁ~…気持ちいぃ~…』
と、1人で温泉を満喫しながら・・・あたしは、さっきの宗三さんとの話を思い返す。やっぱり気づいている人は気づいているのか、あたしが兼さんを・・・
「よぉ、邪魔するぜ」
『ふぇ!?…つ、鶴さん!?』
ぼや~っと考えていたら、背後から聞きなれた声が聞こえた
鶴さんが、腰にタオルを巻いた姿でそこに立っていた
『えっ!?あたしッ鍵…』
「鍵開いてたぜ?ったく無防備だなお前は」
そういえば、あまりに1人大浴場が楽しみ過ぎて来て早々に服を脱いで入ったような気が・・・
「まぁ安心しろ。俺がきっちり鍵を掛けといたからな」
『あ、そうですか…って!?それって駄目じゃ…』
「いいじゃねえか、2人で楽しもうぜ」
うっかり安心してしまったあたしの隣に普通に入ってきた
前のかくれんぼの事があるから、少しだけ彼から離れようと動くとそれを阻止するようにあたしの肩を抱いた
「おいどうした?そんなに緊張して」
『いや、だって…』
「だって?前みたいなことされると思ってんのか?」
『ッ分かってるなら…』
「大丈夫だ。…今回は前のようじゃすまないからな」
『えっ!?きゃ…!!』
そう言った鶴さんは、急に水しぶきを上げてあたしの前に立ちふさがる形をとった
「この前は逃げられちまったからな。今日は逃がさねえぞ、冴姫」
彼の美しい金色の目が妖しくキラリと光り、あたしをじっと見つめている。そんな目に見つめられてしまったあたしは、逃げることも声を出すこともできず、ただ近づいてくる彼の唇を受け入れることしかできなかった