第9章 【澤村】ただいまばかり
「帰ろーぜー」
「おー」
「今日も疲れたなぁー」
「だなー」
と三年烏野トリノのいつも通りの下校タイム。
いつも通りの部活後。いつも通りに坂ノ下商店に寄ってつまみ食いをして行こうと話になるが
「悪い。俺今日は」
と澤村が少し申し訳なさそうな顔で二人に詫びる。
今日はいつも通りの帰り道は澤村が別行動。
「彼女のとこかぁ」
とにやける東峰に
「良いなー!彼女飯!」
と羨ましくする菅原。
「悪いな」
とそんな二人を見て苦笑して、3人でじゃーなと言って別れる。
苗名さん。
菅原が言う通り、最近お付き合いしだした澤村の彼女である。
高校生の澤村に対して3つ上の名は社会人で、事前に行く日が決まっている時は、部活後に名の家に寄ると丁度ご飯が出来ていて、食事を共にする。
『お帰りなさい』
と先に帰っている名が夕飯を作って待っていてくれるのは嬉しいが、名だって仕事があるのにといつも申し訳なくなり、ふと親の有り難みを感じる。
(今年はきちんと母の日やろうかね)
そう思えたのは名と一緒に居るためだ。社会人をしつつ家事をする大変さを名を通して分かった。
(俺独り暮らしとかできっかなぁ)
仕事がどういうものかは分からないが疲労感が同じならば今からご飯を作ったり、洗濯したりはなかなか大変だ。
(母の日に名さんに何かあげたら激怒されるな)
と愛しい彼女が『私は母親じゃありません!!』と怒っているのを思い浮かべ、
(きっとその後すねてしまうんだろうな)
大地のバカ!だの、なんだの文句を言われるに違いない。
ならば、
(確かこの辺りにスーパーが)
ならば、その感謝の気持ちを今度はこちらがやってやろうと思い、菅原には悪いが名を借り、いざとなったら泊まれる様にもして、今晩は澤村が名にご飯を作ろうと考えていた。
最近の名は仕事が忙しく帰りが異様に遅い。いつもの家に寄り食事を終えてまったりしている時間に帰ってくる。
(おかげで平日会えないし)
土日はこちらが部活だったりあちらに用事があったりで毎週必ず会える訳ではなく、その分平日にと名が定時で上がれる日は会う事になっていた。
(帰り遅いとやっぱり消化に良いもんがいいのか?)