第7章 【澤村】酔わせたい
酔わせたい
そんな事を言うととっても怒られるのは彼の誠実な部分がそうするのだと思う。
別に酔わせたいと言っても卑猥な事をするためとか酔わせまくって意識をなくさせる様な悪徳なやつでなくて、
「やーまだ帰りたくなぁい」
と女の子が可愛く、あざとく、くどく、甘い感じが彼で見たいだけなのだ。
「いや、キモいだけだろうそんなの」
と笑うこの優しそうな人は彼氏である澤村大地さん。2つ上で面倒見が良くて、しっかりしていてなんでこんな私とつきあってくれたのか不思議だが
「なんか名はほっとけないんだよな」
とカウンターを挟んで言う澤村。そして向かいには昼はカフェ、夜はバーなこの店でバイトをする私。
「本当、わざわざ迎えに来てくれるなんて、なんて良い子」
と店長。
「しかも呑んでってくれるし」
と言われれば、カランとグラスを挙げ、初めて来た時は緊張しまくりだったのにすっかり慣れて余裕綽々な素振り。
「私が飲むのは嫌がるくせに・・・」
とグラスを拭きつつそう言えば
「あなたの酔い方は酷いからキラーい」
「あ、俺もでーす」
気が合いますねと言う二人にイラつきつつも、本当にすっかりお酒に慣れたと言うか、スーツ姿もお酒を嗜む様も板についてしまって
(惚れ直してどうする・・・)
と学生時代とは違った雰囲気がまた素敵に見えてしまう。
「あら名時間ね。本当に大地君もぴったり呑み終わるんだから」
と空いた澤村のグラスと、着替えを済ませにいく名。
「本当に名のどこが良かったの?あんなにお酒ぐせ悪いのに」
しかも大地君を酔わせたいだなんて、ねぇと言う店長に澤村が笑顔を返せば、それはほろ酔いの合図。
「俺お酒詳しくないけど、店長さんが出してくれるやつは好きですよ」
「本当?ありがと」
ただ
「ただ強いんです!大地さんには!」
と裏から出てくる名に店長が注意をうける。周りのスタッフにも挨拶をし店を出ればにぎやかな店内とは違って静かな通り。
「ここ夜道危なさそうだよなー」
とすっと手を繋いでくれるのは付き合った時から。カフェでのバイトがバーでとなった時は心配されたが、それは見送りをするといった対策で澤村の中では落ち着いた様だった。
「店長も俺が毎回来てる様に言うけどそんなに来てるかな?」
控えてるつもりなんだけどなと空を仰ぐ澤村に