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君と並んで歩く未来

第6章 無法地帯


「おじ様が教えてくださったの」
瀬凪は顔を俯かせてぽつりと呟く
「瀬凪も親父に教えてもらってたのかー」
創馬が納得したように腕を組み頷く
「俺もこの焼き方はウチの親父に習ったんすよ。魚をバリッと仕上げるにはもってこいだってね」
ごはんと一緒にザクザク食うのもいいし昆布茶にひたして少ししんなりさせるとまた違う触感が楽しめるんだ
「どっちにしてもこの品には欠かせない調理法だね」
創馬は笑いながら説明する。それに一色は首を傾げながら尋ねる
「君のお父さんはフランス料理の修業を?」
確かに下町の一介の大衆食堂の料理人がフレンチの技法を使うのは中々に珍しい。一色の疑問はもっともであった
「やーそれが俺にもよく分かんなくて。どうもいろんな国で料理してたみたいだけど…」
自身の父親のことではあるが創馬にもわからないらしく彼も首を傾げる。一色は手元の茶漬けを見つめながら口元に笑みを浮かべる
「(まさかおにぎりの具をフレンチの技で作るなんて…国境やジャンルに囚われないなんて自由な料理だろう!)」
瀬凪はそんな一色を横目に茶漬けを口に運んでいく。ふっくらとした鰆の身とザクザクとした触感が溜まらない皮。噛めば噛むほどに洪水の様に旨味が湧き出てき、次から次へと箸が止まらない。気づけば瀬凪だけでなく他の三人も夢中になって茶漬けを食べている。純白のお米は雪のようで、その中から力強く現れる鰆はまさに春の生命力そのもの。瀬凪は最後の一口を飲み込んだ後自身を抱きその快感にも等しい旨味を耐える。まさに創馬の作った茶漬けは
「御粗末!」
芽生えだった

「美しい…雪解けだったよ創馬くん…!」
「先輩こそな…!清々しい春風、感じたぜ…!」
一色と創馬はお互いの料理を称えあう。言葉だけを聞けばそれは美しいものではあるが、残念なことにそれだけではなかった。その時眠っていた田所が目を覚まし目の前に広がる光景に絶句する
「(何だべこの状況)」
彼女が見たのは涙を流す半裸の男と握手を交わす同級生の図だった
その状況を見ていた瀬凪は
「(締まらない…)」
こっそりと溜息を吐き呆れていた
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