第29章 大切な心
アル「え?
(ケイト『過去は過去だ』
一体、どういう…?」狼狽
汗が一筋、アルの頬から流れ落ちた。
ケイト「アル、準備」
アル「!はい!(ばっ!!)
(ダメだ!今は戦いのことを考えるんだ!!」頭を振る
15mの感覚を開けて構える最中、魔導士もまた杖を取り出して構えていた。
それから後…激戦は始まる。
魔道具を利用しており、転移で自在に飛んで攻撃するそれはまさに変幻自在で、アルを苦しめていた。
ディ「…」
ケイト「ディ」
その様子を前に、ディは魔力が出かかる寸前まで…操作していた。
それを見かねてか、ケイトは呼び止めた。
ディ「!」びくっ!!
ケイト「手出し無用」
ディ「でも…お兄ちゃんが」
ケイト「真剣勝負に水を差すな。
それとも何か?信じられないと?」
ディ「!ううん!!」ぎゅっ!
唇を噛み締めて拳を強く握り締めるディの左手の甲に、そっとケイトは右手を重ねた。
僕も繋げようかな…
そう考えて、不安そうになるディの右手を取って優しく握った。
ケイト「ディ…私は、子供に母親として何をしてやれるかわかんない。
いざという時に護ること、体験から教えることぐらいしかできない。
助けてくれる人間など、誰もいないと思え」
ディ「え?どういうこと?」きょとん
ケイト「人はいつも他を追い込む。
そして助けず、囃し立て、安全な場所から高笑いして煽るのさ。
所詮、人の傷など他人事のようにしか捉えん奴等ばかりだ。
逆にここぞとストレス発散の場として利用し、誰かに助けを求めれば空気を読めと怒り、苛烈させる。
もしくは他人事のように距離を取り、我関せずで楽しみ青春を謳歌する。
私の知る人間とは、そういう連中だ」
ディ「…え?」
今までになく底冷えする声と眼差しに、ディは若干怯えたような眼を向けた。
ケイト「いや、正確には『だった』。
ここ(オラリオ)で出会った人達と、育ての家族と姉は…その人達だけは、まともな人達だった。
私の傷に寄り添ってくれた。こんな私を愛してくれた。私の為に、痛みを察して怒ってまでくれた^^//」くす
ディが必死に奮闘する最中、心底嬉しそうに先程とは打って変わって柔らかな笑みを浮かべた。
その激しくぶつかり合う騒音の中「本当に…大切な人なんだ」というケイトの言葉が耳を打った。