第27章 変化
『あなたも素敵な相手に出会えるといいね』
『いつか、お前だけの英雄にめぐり逢えるといいな』
お母さん、お父さん…見つけたよ。
何よりも護りたい大切な人を…私だけの、英雄を――
凍てついたはずの心、溶けない永遠の氷壁に覆われた心が…少しずつ、急速に、解けていくのを感じた。
小さなことのはずなのに、気付けば心は弾んでいて…修業でも、何でも…ケイトとなら楽しいと思えた。
たった一か月と少しのはずだったのに…それが、変わっていった。
一緒に遊んだ。誘われるでもなく、一緒に居たいと思えた。
気付けば前に踏み出していて、楽しいと思えた。
フィンを庇って失いかけたあの時は…とても、哀しかった。
両親が死んでから、リヴェリアに黒い炎を鎮めてもらってから…
あれから涸れ果てたはずの涙が目尻に溜まり、鼻をすすった。←607ページ参照
抱き締めた温もりを感じて、不意に涙が零れ落ちた。
無事だったことが、嬉しくて仕方なかった。気付けば、子供の時のように泣きじゃくっていた。
失いたくない――
強く、そう想った…
大切な存在なんだって、この時になってから気付いた。
あれほど精神的に苦しめられている人は見たことがなかった。
たった一か月でも、それを感じさせないほど優しく接してくれた。
初めてゲームをした。膝枕も気持ちよかった。
一緒に居るだけで心が満たされていって、黒い炎が生まれることも減って、迷宮に潜る数も今までにないほど減っていた。
ケイトに付き添って、久しぶりに迷宮に行った時…
あれだけ苦労したジャガーノートを軽く単騎で倒すケイトに、強くなりたい気持ちは昂ぶった。
修業空間で、たくさん鍛え込んでもらって…身体能力の生かし方を叩き込まれ続けた。
動きに無駄が多いことを何度でも指摘されて、たった3時間で…
25日間のほぼ全てを修業に継ぎ込んで、ケイトの積み重ねが私のそれ以上であることを身を持って知った。
そしてそれが、常に殺されかける極限状態下でい続けた環境故だと理解した。
追い付きたい背がやっと見えた。
あと半分といった所で修業空間は終わった。
そのお陰で、隙や無駄がどこかがよく見えるようになった。
Lv.7になって、器用がSSを超えてSSSになった時、周囲の動きがより緩慢に見えた。
今度こそ…追い付いてみせる!