第27章 変化
ケイト(あと少しで届く!)
椿へ届きかけたその矢先、今度はケイトの背後に回って右拳を振り下ろそうとする。
咄嗟に僕はオリハルコンの槍を壁へ全力で投擲した。
それは狙い通りミノタウロスの腕の関節部分に引っかかり
攻撃ができないようにし、僅か数cmまで迫っていた右拳も振り切れず高速で引き戻された。
ケイト「復元!」かっ!(魔法円展開)
ケイトは背後の状況の変化に気付いていない。
届くや否や、ミノタウロスが壊した道具類が全て瞬く間に直っていった。
無論、人が衝撃波で得た傷もまた同様に。
その行動のことしか、考えていなかった。
その一瞬の間…ミノタウロスは左手で槍を引き抜き
「ヴオオオォォォォォォォ!!」
椿「!避けろ!!」
そのまま…左脇の下を通して腕の力だけで槍を飛ばした。
それこそ先程した全力の一投を超えた速度、ミノタウロスが投げる直前に届いた椿の声で僕は咄嗟に上半身を捻る。
超高速で戻ってきた槍による一撃が僅か数cmまで迫り、右胸を弾き飛ばすかの如く大きく抉ろうとした矢先
ケイトが声に反応してか、即座に状況を精霊導によって読み取るや否や…テレポートで庇うように抱き着いてきた。
フィン(このままでは、また…っ!)
そう考えてしまった矢先、頭によぎったのはレヴィスの一撃から庇われた時の光景。
それと共に、両親が自身を庇って致命傷を受けた時の光景もまた同様に…
強引に体の位置を入れ替え、自身のもとへと引き寄せて背に食らった。
左上背の内側が大きく露出した状態となり
食らった反動と庇った勢いのまま回転して、多量の血と僅かな肉を撒き散らしながら落ちていく。
着地の際はケイトが必死に動いたこともあってか衝撃も一切なく、痛みを感じさせないほどだった。
辛うじて、九死に一生を得た…即死を回避していた。
だが…あの(僕を庇った)時のケイトと同じく、致命傷であることに違いはなかった。
ケイト「ぁ…ぁぁっ;」
滂沱の涙が頬へ降り注いでくる最中、想いが伝わってきた。
育ての家族が血濡れて倒れる光景、生みの母親が自分を抱き締めた状態で生みの父親から庇って血塗れで死んだ光景。
ケイトの身から迸る魔力が、彼女の戸惑いを表わすかのように大荒れが訪れる前の静けさと化していた。