第17章 雨
フィン「納得してもらえないかい?
なら言い方を変えよう。
今回の事件は、ベートに一任する」
『!!』
フィン「…もう…僕達が何を言ったって止まらないよ、彼は」
僕自身、『激情』に駆られた身だ。
失いかけただけでこれだ。失えばどう行動するか、はっきりとわかる。
彼の次の行動は、ヴァレッタ達の殺戮だ。
その指示の伝達は通信機によって早々にロキ・ファミリア全体に伝わり、僕は一部隊を率いて雨の中を旧式の地下水路へ向けて走っていった。
『こんな命令、団長らしくない』という意見が多くあったが
「いや、ベートを理解…信頼しているからこそ質が悪い」とリヴェリアは呟いたらしい。
配置に着いた折、雷を思わせるベートの遠吠えがオラリオに響き渡る。
狼の遠吠えは誓いだと言う。
恐らくこれは『絶狩』、全てを狩り尽くすまで止まらないそれだろう。
槍のような雨の中、戦いは火蓋を切って落とされる。
闇派閥の内の一人を殺す度、遠吠えがまた響く。
そんな間、リヴェリアもまた治療院でベートのその言葉の意味を伝えていた。
ケイトに投げかけたあれは、もはや『発破』のそれをも超えていたようにも思えたけどね。
ティオナ「ねえ、フィン…ベートに何があったの?
何でベートはあんな風に雑魚雑魚って人を馬鹿にするようになったの?」
初めてベートと向き合おうとしたその姿勢に、僕の知り得ることを伝えた。
彼は自らのことを頑なに言おうとはしない。だから推測でしかないのだけれど…
強くなれば護れると思っていた。誰も死なないと思っていた。
だが、現実は違う。弱者を全て護り切ることなどできない。
どれほど強くなろうと、指の隙間から零れ落ちて死んでいく。
死なない者などいない。『弱者』は、必ず死んでいく。
ならば、ふるい落としをするしかない。死なせてしまう前に、戦場から遠ざけるしかない。
以前目に余って問い質した折、リヴェリアは言った。
「お前の価値観を押し付けて他者を傷付ける道理はない」と。
彼は叫んだ。
「無くなった後でも同じことが言えんのかよ!?
傷をこさえるより死ぬ方がマシだってか?くたばった後じゃ何もかも遅ぇだろうが!!」
そうして彼は、不器用なやり方を今も貫き続けている。