第94章 創傷(そうしょう)
しかし…もう、その生まれ持った能力は、ウルに移動してしまった……
もう生き返ることは無い
やっと終われると満面の笑みを零すそれ(ケイト)を…
私は、どんな顔で受け止めていただろうか……
喜びに打ち震える
涙さえ流すそれを前にして…
素直に、喜びを、感じていられただろうか……
(拳を握り締め、肩ごと全身を震わせる)
こちらが感じていたのは………恐怖だ
そんなになるまで追い詰めて
なんの罪悪感も、意識一つさえも抱けない
そんな存在にしたのは自分だ、とケイトは自らを責めていたが
「はあ?」
湧き出た想いは、その一言だけだった
呆れ、嘲笑、様々な思いがあったと思う
事実…
「貴方にそんなことをする人達が?
人にそんなことをして平気で笑って続けていられるような人が
接する相手さえ変えれば、違っていれば、罪を犯していなかった?
違う!!
決してそんなことは無い!!」
そう断言した
「そんな価値観や、そんな行為を実行に移しても平気でいられる繰り返し続けていられる精神性を持った人間が、他者に対してしないと言い切れる?
そんな馬鹿なことありはしない!(頭を振る)
絶対に!!」
そう、はっきりと言い切ってやった
すると…
笑って…
ケイト「ありがとう……
でも…それでも……
そんなことは無いって…
信じていたかったんだ……
どんな人にも一面だけじゃない何かがある
たまたま私にはそんな一面であっただけで…
そんなことは無いと…
全員に対して、そんなことはしないだろうと…
思いたかったんだ
父みたいな人しかいないなんて…
認めたくなかった
認めてしまえば……
どうしてしまうかわからなくて…
恐かったんだ――
そうなってしまうことが――
父のように、当たり散らして、ガナリ散らして…喜んでやりたい放題して、笑うそれに…なってしまうのが……」
フィン「それは!!」
ケイト「……私は…優しくなんかはないんだ……
ただ…臆病なだけだよ
怒りに飲まれて、衝動的に暴れて、それを正当化するのが恐かった
痛い思いをさせて、笑っていられる精神性になってしまうのが恐かった
ただ…ただ……誰かに…
全部を失う思いも…誰かを喪う辛さも…苦しさも…痛みも…
何も、味わって欲しくはないんだよ
どんなに酷いことをしてきた人であっても