第16章 悲鳴
ケイトと知り合い共に過ごしたのは、当時にしてみれば僅か一日だった。
だが、人柄は十分知っていた。
最初に酒場へ連れて行った時、常に遠慮していた。
食事も飲み物も全て、促されなければ食べようとも飲もうともしなかった。
逆に人のそればかり気にして、大丈夫かなと頻りに周囲に目を配り気に掛けていたのが見て取れた。
記憶を失っていてもこれだ。
その上、記憶を取り戻してもなお仕返しをしようともしない。
それよりも自分が要因だと、散々自分を傷付けてきた街が大丈夫か気にして走り出す程だ。
おまけに同じ思いをさせたくないとまできている。
いずれにせよ、悪人だとは到底思えなかった。
寧ろ、それを高らかに叫んでる方があからさまに怪しい。
「そう思わせていただけだ!」と高らかに叫ぶ街のそれは、ケイトのいい評価を是としないだけのように見えた。
行き違いにしては堂々巡りにもほどがある。
それを見た当初の反応は『困ったな』という程度で、ケイトの本質を知る前だったからこそか…殺意までは芽生えなかった。
記憶を取り戻した後も彼女は遠慮したままで、取っ掛かりを掴んでここまで引き寄せた。
育ての家族に似ていたと彼女は言った。
それと同じように接してごらんと言うと、距離を僅かだが詰めてきた。
僕達は家族だ。遠慮なんてしなくていい。したいようにしていいんだ。間違えば止める。
そう諭すと、頑張って勇気を振り絞ってやりたいことをし出した。震えながら。
そうして時間が経つにつれ少しずつ慣れていき、あそこまで開いてくれるようになった。
彼女の『本質』はどこまでも純粋で、恐れ知らずで、おっちょこちょいで…
馬鹿なぐらい優しくて、お人好しで、人のそれを自分のことのように痛んで……
ありのままの彼女は、とても無邪気だった。
満面の笑みを浮かべてストレートに気持ちを伝えるそれは、甘え上手で…
どこか…懐かしく、温かい感じがした。
そんな彼女だと理解したから、僕を庇って死に掛けている状況下でも人の心配をする馬鹿だから…
ケイト『き、ず…治せて、よかっ…^^』←532ページ参照
意識を失う最後の最後まで、目も見えない状態でもなおそう言う人だから……
余計に、頑なな街の態度に対する殺意と怒気が膨れ上がった。
そしてそれは、ロキ・ファミリア全体が思っていたことだった。