第16章 悲鳴
死ぬ方法がわかった今、彼女(ケイト)は幼い頃に抱いた死ぬという夢を引き出して実行するかもしれない。
それが予期できたからこそ、余計に僕は赦せなかった。
苛立ちが収まらなかった。それは皆同じだったようだ。
それでもなんてことはない。
その時には僕らが力尽くでも止めればいいだけだ。
なら僕らも腹を括ろう。
前に踏み出して、勇気を振り絞って歩み寄ってくれた彼女に応えよう。
そんなことを思い出させないほどに、共に生きていこう。
一番そのことで苦しんできたのは、苦しまされてきたのは他ならないケイトだ。
思い出して、フラッシュバックを起こして、前のように人を手当たり次第に殺そうとする衝動に駆られるかもしれない。反抗期を迎えて乗り越えた今でも、自分を殴っていつものことだと言い聞かせるかもしれない。←266ページ参照
過去のそれと激情のままに、また自分を殺そうとするかもしれない。
僕達はその歯止め役になればいい。
あんな考え方(370~373ページ参照)ができるまでに至った彼女を、殺させていいはずがない。
劣悪過ぎる環境でもなお、その清純さを護り抜いた彼女を生かそう。ありのままでいられるように。
そのありのままを人為的に奪い殺し、タッグを組んで続けた上で笑ってられる輩など、もはや相手にする価値もない。
街の人達がケイトへやったのはそういうことだ。一度謝る程度で償えるそれでもないし何をした所で消えはしない。
だからこそ相手にしない。取り合わない。
気付けば彼女に惚れていた。
それは、そんな環境であってもなお、そんな劣悪な状態に15年も晒されてもなおそれとは違うと信じ、向かい合ってくれる。いじらしいほどに慕ってくれる態度だ。
どれほどの目に遭ってもなお、傷付け続けてくる相手であってもなお、決して軽んじず、人には同じことをせず、誰でも痛いのは嫌でしょ?と思いやり続ける馬鹿を通り越すほどの思い遣り故だ。
偏見で目を曇らせたあの街の輩には絶対に、一生を通してもわからないだろう。
仕返しをしないのは、同じ痛みを与えたくないが故のそれ(優しさ)だということにさえ気付かぬまま、僕達が指摘してもなお頑なに受け入れぬまま、今もなお悪人だと高らかに叫んで責め続けているのだから。
そんな輩を気に留めないこと、決してケイトへ会わせないことを決めた。