第92章 新たな神武(しんぶ)
ゼウス「下級精霊だろう
ベルが優しくて澄んでおるから助けてくれたんじゃろうな」
ベル「ぐすん…
死んじゃったの?;」
ゼウス「なに…
生きていれば、その内逢える
めそめそしておったら、なんの為に命を分け与えたと思ってるんだと怒られるぞ?(なでなで)
笑え!
よく耐えた
お前はゴブリンに勝った」
ベル「倒したのも…助けてくれたのも…じいちゃんだよ」ひっくひっく
ゼウス「ん?はっはっはっ^^
そうかそうか」なでなで
そうして村への帰路に着いた
しゃっくりを上げて涙をぼろぼろと落とし、大きな大きな胸へ縋り付く
ゼウスはその逞しい腕で、体中を血だらけとあざだらけにしているベルを、胸の中に抱き抱えながら頭をぽんぽんと叩く
ゼウス「痛むか、ベル」
その優しい声音に、ベルは頷き掛けてから、頭を振った
そしてまた泣き出した
それに笑みを浮かべ、震えながらしがみ付いてくるベルを抱き締め続けながらゼウスは言った
ゼウス「だから村の外には出るなと言ったじゃろう
ゴブリン達にボコボコにされおって、ぶったまげたぞ
だが、よく耐えた
お前はあのモンスター達に負けなかった
胸を張れ」
夕焼け色の空、金色に輝く一面の平原
ゼウス「格好良かったぞ、ベル^^」
その大きな笑みに、ベルはもう一度泣き出した
その日、その時…ベルは一つの罪を犯した
助けてくれた人(ゼウス)になりたい
僕だけの英雄になってくれたように
自分を助ける為に命を捨てた精霊のこと等忘れ、ゼウスだけを大事にし
大事にするべき人を、恩人を、大事にせず、見捨て、墓も作らず、笑うという仇返しを、悪とも思わず実行に移し続けるという罪を…
死ぬ最期の瞬間まで、消える最期の瞬間まで、彼は犯し続けた
全身の折られた骨も何もかもを治したことで巣から逃げ出せたことも、ゴブリン達を引き連れながらも追い付かれて殴られながらもゼウスが来るまで持ち堪えられたことも…何もかもを忘れて……
都合のいい部分、なりたい自分を目指す点のみ覚えておいて………
初めての出会いは…最悪な形であった
そして更に…水鏡越しに叫んだ相手のことも、顔も、全て忘れ去っていた
都合の悪いことは忘れ、そして…
自分を助ける為に犠牲になって行く人々のことは全て忘れ…
また…過ちを繰り返す…幾度と無く永遠に