第16章 悲鳴
そう荒々しくそっぽを向きながら悪態をつくドワーフに、エルフは目を伏せながら愉快そうに笑った。
いけ好かないエルフ、野蛮なドワーフ、出会った当初はそう互いにいがみ合っていた。
そんな昔からすれば、このように談笑すること自体が珍しいものでもあった。
ちょうどその頃、フィンは治療院に着き、ケイトの下へと辿り着いた。
その傍にいたアミッドから聞いた所によると
先程ケイトの心臓が止まらぬようになり、現在では僅かではあるが自らで息をするようにまで回復したそうだ。
ケイトの魔力の性質は浄化、しかしその実態は『力を強めるもの』。
魔力を与える、あるいは自身に働きかけた際にそれだけで身体能力が倍までに強まる理由はそれであった。
本来、普通の魔力集中による身体能力強化はそこまで顕著ではなく、できたとしても精々5割増し程度。
それを動きに合わせてタイミングよく連鎖させ噛み合わせることで威力を倍増しにし、効果を倍加としているだけ。←464ページ参照
だがケイトの場合は、魔力を集中させるだけでその箇所の能力の全てを倍に強化できる。←479ページ参照
よって、例の動きに合わせたそれでは4倍にまで跳ね上がるのだ。
それらの情報が明らかとなって証明された後、彼女はある考えに行き着いた。
『ならばその魔力を生み出す細胞もまた似た力を有しており、その力が助けとなっているが故の悪あがきなのでは?』
そう考えが至ったことで、それが呪詛の最後のあがきを引き起こすだけでなく強める元となっていると逢魔が時に見抜いた彼女は、ちょうど見舞いに来たアスフィに気付いたことを相談&協力を要請。
そしてちょうど日が沈んでから数時間後に、アスフィが発展アビリティ《神秘》を用いて製作した、ケイト専用の『細胞が持つ強化作用を無効化させる魔道具(マジックアイテム)』が完成。
試験段階のものとして使用されたそれは初回で成功、見事に目論見があたって呪詛の全解呪にまで漕ぎ付けた。
その結果、現時点では肺の傷も塞がり、火傷も跡形もなく治り、僅かながらも自らで息ができるまでに回復したのであった。