第16章 悲鳴
自分が今のケイトにできることなど何もなく、庇われた身でありながら何も返せない。
何度も何度も心肺停止に陥っては見たことのない道具に助けられて強引に生かされている中、それを見守るしかできなかった。
付きっ切りの最中、命は保証できないとのアミッドの言葉に余計に動揺した。
点滴での内からの解呪と、アミッドの外からの解呪魔法。
しかし呪詛は収まらず、雷を受けたことによる火傷も肺の傷も無論消えはしない。
脈打つに従って血も止まらない。自分にできることは何もない。
彼女は弱るばかり。ただ付き添うだけしかできない。死ぬなと呼びかけることしかできない。
魔力の性質上、回復すれば余計呪詛まで回復し兼ねないと送るのも禁じられている。
その状況が、荒れを加速させた。
なおさらに心が荒れに荒れ、一時は激情のままに闇派閥へ攻撃を仕掛けようとした。
それからリヴェリアの制止を以って落ち着きを取り戻すも、荒れて昂ぶった感情までは収まりが付かず…
激情のまま、涙と共に叫びが真っ暗な執務室で響き渡った。
しかし毎日合間を縫いながら通う内…懸命に生きようと抗うその姿を見ている内、その心境に変化が訪れた。
彼女を信じないでどうするんだ、と――
彼は何度も見てきた。
息と心臓が止まった彼女が何度も息を吹き返す、何度も鼓動を取り戻す。
それらを何度も何度も目の当たりにする内、何度も続く内、そう思い至ったのだ。
彼女は帰ってくると言った。待っててと言った。
ならば…今懸命に生きようとしている彼女に何かするのは野暮だ。
精々できるのは手を握り締めること、見守ること、頬や頭を撫で声をかけること、そして何より…信じること。
それ以外の時間は全て、今まで通り団長としての責務に勤めよう。
そう思い至ったのは、オッタルが訪れる少し前の夜更け。
その時を境に、彼は前を向いて信じることと、職務を全うすることを選び、同時に彼女に誓った。
できることさえもできなくなれば、仕事に手も付かず放り出し続けていれば
その様子を見た彼女に軽く罵倒され、笑いながらも鼓舞してくるだろうと。
結果として、『死にはしない』『僕の惚れた女性は、そんなに柔じゃない』と思うに至ったのである。
それを周囲が理解したのは、ロキの口からフィンの心境の変化を語られた時だった。