第16章 悲鳴
『何故…彼女を傷付けられて平気でいられた?
何故、失いかけている今の現状で、何もせずにいられる?』
もう一人の自分がそう掻き立てる。赦すなとひた叫ぶ。
焦る気持ちと心、それを抑えて冷静に対処しようとする頭、相反する二つがせめぎ合い、猛り狂う『激情』となって心を激しく荒らしていった。
そうして走る内、気付けばホームの門に辿り着いていた。
門番の声を振り切り、見かけるや否やかけてくる団員達の声も聞かず、ただひたすらに走り続けた。
そこに辿り着けば冷静でいられるであろう場所に、脇目も振らず、何も言わず、必死に駆け付けた。
しかし…その目論見は容易く覆される。
フィン『はあっ…っ!!!』ぎりり
自分の執務室にある絵画風織物のフィアナが視界に入った直後
彼女の笑顔が、フィアナへの主張が脳裏に蘇り、逆に激しく心を揺さぶり、掻き立てて歯噛みさせた。
だんっ!!!!
そうして気付けば、時間帯にして執務室へ辿り着いた直後
抑えようのない怒りを拳に乗せて、机へと叩き付けていた。
魔石灯も付けていない執務室は暗く、その中で拳を強く握り締めながら息を整えつつ一人震えていた。
そんな中、何事かと執務室へ数多くの者達が駆け付けた。
アイズ『!…フィン?』
そんな人達に、激情に任せ、集まった人を認識した次の瞬間には叫んでしまっていた。
フィン『ぎり!)扉を失った今、本拠地は無防備だ。
動ける人間を集めろ、攻めに行く!』
しかし、それを止めてくれた存在がいた。
それは副団長であるリヴェリアだった。
リヴェリア『冷静になれ、フィン。
気持ちはわかる。
だが…今のお前は、仮面を被れていないぞ』
その言葉は正論。
いつもそうしてきた。そのはずだった。
フィン『ぐっ!!!)………』ぎりぎり
拳を強く、震えるほどに握り締め、歯噛みし、自分を抑え込む為に叱咤した。
『自分は何だ?何の為にここにいる?
思い出せ!自分の役割を!!』
そう頭の中で考え叫ぶことで、必死に沸き上がる激情を抑え込んだ。
『自分は団長だ。
命を預かる立場で、平静に振る舞わなければいけない』
そう自らに言い聞かせて一時的に落ち着かせた後、今度こそちゃんと正しい指示を飛ばした。
しかし…それができたのは、団員達がいる前でのみだった。