第15章 人造迷宮
フィン『先に帰っていてくれ』
アスフィを呼びに行く際に馬車に掛けられた言葉、それは帰還命令だった。
1日身体を休ませた後、つまり次の日に手分けしてドロップアイテムや魔石を売りに出し、その日の晩に宴をする。
それが普段からの遠征の後の行動だった。
帰ってきた一軍と馬車を前に、遠征は成功だと諸手を挙げて喜ぶ人々だったが、あることに気付いた。
団長とケイトが居ないことに…
その日の晩、団長はたった一人でホームに帰ってきた。
そして帰ってくるなり、団員達の声も聞かず、制止も振り切り、返事も返せないまま走りに走り
だんっ!!!!
執務室へ辿り着いた直後、抑えようのない怒りを拳に乗せて机へと叩き付けた。
彼の息は見るからに荒れ狂っており、あまりの音の大きさと見たことのない様子に、何事かと執務室へと駆け付ける者達が数多くいた。
アイズ「!…フィン?」
フィン「ぎり!)扉を失った今、本拠地は無防備だ。
動ける人間を集めろ、攻めに行く!」
リヴェリア「冷静になれ、フィン。
気持ちはわかる。
だが…今のお前は、仮面を被れていないぞ」
フィン「ぐっ!!!)………」ぎりぎり
拳を震えるほど強く握り締めてから12秒ほど後
フィン「…取り乱してしまった。済まない。
人造迷宮クノッソスについては明日調べる。
ゆっくり休んでくれ」
そうして解散を促し、彼だけが執務室に取り残された。
手袋の先が破れ、血が零れ落ちていく中、必死に自分を戒めた。
一人になってから……その脳裏によぎるのは、ケイトへの告白の時に零した言葉。
それを聞いた彼女が照れ臭そうに頬を赤らめながら、それでも嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。
彼女の笑顔が瞼の裏に浮かぶ。
フィン「何が…護るだっ!!!」
一人取り残された執務室で、一人の声が響き渡った。
その叫び声に、血だけではない…何かの雫の落ちる音が掻き消された。
頬を伝って落ちていく雫は誰にも見られることもなく、その叫びは闇へと消えていった。
こうして…たった一日の遠征は、終わりを告げた。
残されたのは唯一の瀕死を負った人と、その最愛の人に守られた者、
今にも死に逝きそうな者への侮蔑の言葉に苛立ちを隠せない者…
多くの深い傷と、凝り(しこり)と蟠り(わだかまり)を残して――