第87章 神化(しんか)
そのお守りが、墓の聖域の基点となっていた
区別も付かない程に深い憎しみに駆られる想いもわかっていた
その日暮らしの中でも、必死に生きている
その姿勢が似ているとリヨンは言った
しかし……「癌」には、あるものがなかった
ケイトにあって、「癌」にはない心が……
『人を見る心』が……『他者を想い遣り、重んじ、その立ち位置に立とうとする、人として生きていく上で、何よりも欠けてはならない、大事な心(中身)』が――
リヨンは…それを見抜いていた……
だから……
いつしか…彼女(悪徳サポーター、小人族の癌)の中の憎しみも晴れればいいなと
そう…感じていた
そう思っていたのは…考えていたのは……彼女(癌)にとってはどうでもいいことなのだろう
冒険者というだけで、手当たり次第に嫌って、当たって、正当化し、盗んで回り、売り飛ばして回る
時には人の命を犠牲にして…
時には尊い、大事にしてくれる、見てくれる少数の人の命をも犠牲にして……
聞く耳持たず、見る目も無い…
ただの醜悪な犯罪者でしか無かった
加害者でしか無かった…
被害者を気取った、悪事を正当化して敢行しまくる、ろくでなし(糞野郎)でしか無かった
だからこそ――デメテル・ファミリアは率先して噂を拡げる手助けをしていた…同じ死を繰り返させない為にも、ガネーシャ・ファミリアにも依頼して
しかし……いつまで経っても暴かれることも無く、捕まることも無かった
そして……
ケイトは…癌が自身を好み慕っていることから強く拒めず、憎しみを抱きながら、嫌悪感を抱きながら…
それでも死ねばいいとでたらめを教えれば、それこそ同じになってしまうからと…
同じ想いをさせたくはないし、そんなことをして平気でいられる、何も感じない外道に、同族になりたくはないと…
やっと、犯罪に手を染めなくても生きれるようになって、折角幸せを堪能している所に、水を差すことは出来ないと…
復讐にも暴露にも踏み切れないでいた
寧ろ…そんな余裕も無いぐらいに、生きるだけで精一杯だった
カルチャーショックで、今の生活に慣れることで手一杯だった
そして…精霊導によって、小人族の癌が持っていた魔法のことも、ルアンの経歴や癌のファミリアを嫌う理由も知った後
英雄譚に載らないように、ケイトはデメテルに伝えた