第14章 遠征
フィン「ンー…そうだね。
それにはまず、彼女のしてきたことを話さないといけないね。
育ての家族に受け入れられた当初、試し斬りを依頼されたそうだ。
ケイトはちょうどいいと判断して、ヌシに挑戦したらしい。
妊婦でもある母親が食べれば精がつく。毛皮等々で需要もある。
だがヌシは大きかった。全長5m。
正面からでは何度も潰される。
そのガタイと力、体重にものを言わせて何度も何度も吹き飛ばされた。
何度も死に、何度も殺され、何度も生き返る。
そんな死線の中で、相手の全体の動きを見ると同時に次の動きを見切り、反射的に次の瞬間には斬り捨てられるようになったそうだ。
それも…相手の動きが自分に達しないよう計算しながら、ね。
そうして血まみれで帰ってきた時、山ほど怒られたそうだ。
精がつく以前の問題だってね(片目瞑&くす)
でも、その目一杯怒った後で「ありがとう」とも言われたらしい。
元より彼女は、僕達とは毛色が違う。
5歳に精霊寵愛を受けてから10歳までずっと、何度も人の手によって殺され続けた。
それに伴った経験は、他と比較できるほど生温いものじゃない。
ある時は鬱憤、ある時は八つ当たり、またある時は実験台。
何かと理由づけて殺され続けてきた。
まだ小さな子供だ。殺すのも容易いだろう。
それでもし勝ったとしてもそれが気に食わないと再び殺され続ける。
多数で寄ってたかって、全身を斬り刻まれたこともあったそうだ。
それでも勝つ為に必死に磨き続けていた。
しかし勝てば何もしていなくても罪を着せられる。
それでも…負けたくはなかった。
気付けば毎日降りかかる暴虐の経験をもとに、剣術と体術が一体化した我流を築き上げていた。
そこに目的はなく、生き延びる為だけに磨き上げられ続けてきたと言った方がいいかもしれない。
だが…10歳になって変わったとすれば、初めて向かい合ってくれた存在。
受け入れてくれた存在が現れたから。温もりをくれる家族ができたから、そこに護る為という目的が生まれた。
だから護る為に使いたいと、今まで以上に必死に身に付けていった。
ある時は息を潜めて兵に寄り添い動きを隠れて見続け」
ティオネ「あ…偵察の時の」
フィン「そう…他にもまだまだある。聞きたいかい?」
こく
その言葉に、皆は揃って頷いた。