第73章 キルアの冒険
技の選択は…一つではない。
多岐に及ぶ。
でなければ…技がバレていては、やる前から即座に対応されてしまう。
バレていたとしてすぐ動けるように…
寧ろバレてる前提で動いた方がいい。
だから…わざわざ一つに絞る必要はないんだ。
エンドとヴォイドを雪合戦のように繰り出し合った頃を思い出しながら微笑む…
うん、あれはあれで気が気で無かった…;
いつケイトに当たらないか暴走しないか冷や冷やものだった;(滝汗)
まあそれは置いておいて…多岐の技のぶつけ合いが、非常に楽しかった……
どう対応してくるのか
どう返してくるのか
次の選択がお互い見えず、それにやきもきされながらも、翻弄されながらも…
まるで…小さな子が、初めてのオセロを楽しむかのように…
漠然とした楽しさだけが、高揚感だけが、互いの胸を占めていた……
ケイトも、僕も…誰もが、純粋に、技の掛け合いを、楽しんでいた――
先程、立ったまま手に汗握り観戦し続けるケイトに妊婦なので配慮し椅子に座らせようとした。
ケイトのことだから自分だけ座ることに対し嫌悪感を示し、確実に僕に遠慮する…
そのことも考えて、勿論僕の分も準備して自ら座っていた。
それを先にして見せなければ、ケイトは座ることも無かったろう…
そういう人だ。
ケイトを嫌う人は…大概が、その本質を誰も見ていない。
見ようともせず、心置きなくサンドバッグにする為に
「自らにとって都合のいい情報」だけを並べ立て、集団で共有し
必ず安全なことから助長し合い、聞こえるよう言ったり言い合うことを他にも促す。
その背景も、痛みも、知らないまま、何も感じないまま…生きていてはいけないと…
だが…逆だ。
それを一人相手に集団で実行に移す人こそが、全てを不幸にする「人の皮を被った悪魔」だ。
それとは相反するかのように…
ケイトは、誰も不幸にしない為、耐えに耐え抜いた…
何もせず、言わず、屈せず、染まらず…同じことさえもやり返しもしないまま…
その背景を、本質を、知らないからと…
決め付けられる側を味わった身として、その心痛を重んじて、人へ決してしなかった……
一体…その人達は、ケイトの何を見てきたのだろうね?
ちゃんと見ていなかったのだろう…
誰もが、彼女のことを……
偽りの像を押し付け…真実を捻じ曲げて――