第70章 新天地
人の醜さを知らなければ、美しさを知れなかった…
冷たさを知らなければ、温もりを知れなかった…
その希少さを、尊さを、愛おしさを…知る術もなかった……
これまで…惜しみなく与えられ続けてきた冷たさを、醜さを、人へ当たりたくなった時もあった…
でも…与えなくてよかったと、私は思う。
だって…私は、この子達の母親なのだから…誇れない背中は、姿は、見せられないものっ!
そうシスターの胸中が伝わってきた。
涙を流す彼女の背を、皆は優しく見守っていた。
誇れる母であろうと、シスターであろうと、懸命に…道が続く限り生涯努め抜こうとする姿を…
それを馬鹿にするものも、茶々入れをするものもいない。
いてはならない、というより結界で入れない。
人の生き様を笑い、滅茶苦茶にし、馬鹿にするものは、命を粗末にするものと判別されるから。
命や生や死を軽んじるものも同意義で…
最初こそ…それに反対しかけた。
その希少さを知れない。今後産まれる者達は、と…
だが…そんな心配は杞憂だった…
子孫も含めて、そういうものがいれば入れないようにされているからだ。
心配せずとも…しっかりと伝え、向き合うよう教えてゆく。
末代まで引き継がれてゆく。
その未来が、神石によって垣間見えた。
確実無比なものとして確定事項となっていることを…
実質業務時間は8時間以上ではあるが…個人の意思を尊重して、その自由を許しているのが現状。
それで時間外手当も含め国から支給される金は全て、皆の意思により神殿共通資産としている。
そのお金は神殿長が管理しており、シスターや神官や文官や孤児達への自由にしていいお金を渡したりもしている。
だが皆が皆、私欲を捨てた身なので、と
子供達の今度に生かせるものを買う為に使おうと、喜ぶものを買おうと、自ずから走ったという…
美味しい料理、温かな時間…それは掛け替えのない土台となり、支えとなった。
神殿の構造や仕組みまで全て、ケイトが一人で考えた。
使う人達の発想と工夫次第で如何様にでも変えられる仕様、その奇抜なアイデアに皆揃って唸りをあげていた。
神殿の在り方や方針もその自由を直々に許し、国立神殿と名乗るのを許したのも彼女だ。
鎮魂歌の他に、その感謝も込めた国歌まで作り出され、今ある神石製の神像に至った…