第70章 新天地
ケイトの生き方に一番大きい影響を与えたのは十中八九、前世の父上だろう…
死の間際に遺された言葉が大きいのかもしれない…
数え年で15、現在で言う所の14歳になり元服済み。
初陣を父上と共に出た折のことだそうで…
その初陣で、父上が殺されたのだ…
ケイトの家は加賀の山なりに近い所にあり、最も背が高い一本杉。
その近くに居を構えた武家、そこから「高杉」という苗字を持っていた。
その苗字こそが農民と武家を分けるものでもある。
ただ、足軽は農民でも武士でもなる最初の位だ。
前世のケイトの名…
幼名は竹若丸(たけわかまる)←2912~2914ページ参照
元服名は正能(まさむね)。
「正」しく、「能」力を遺憾なく発揮すること。
その先を願い、名付けられたそうだ…
「父上!父上!!
父上ええええ!!!」
初陣で動きが強張っており、周囲が見えていなかった。
だが周りの人からの助けもあり、無事乗り切れていた…
終盤までは…
同じ陣営の武士が横からの不意打ちから襲い掛かられ、割って入り庇った父は袈裟斬りをまともに食らい、そのまま倒れ伏した。
「父上ええええええ!!!」
慟哭のような正能(ケイト)の叫びが響く。
即座に駆け付け、父上!父上!!と揺すり泣きじゃくる正能に、父は言った…
今際の際の言葉を…
「高杉!!」
「おのれぇ!」
周りの武士たちが慌ただしく我先にと仇へ向けて弾かれるように駆けてゆく。
仇は笑い、走り去ってゆく…
「足軽組頭を打ち取ったぞ!」と、高らかに笑いながら…
父上「正能…」はあっ…はあっ
正能「!(ばっ!)
はいっ!!」
父上「老いるな…」
正能「?」
父上「老いは…思考を滞らせ、視野をも狭める…
凝り固まった思想に、とらわれるな…
この狂った世界に、染まるな。生き延びよ。
よいな…生き残れ」
父上は言った。
殺した数こそが、首の数こそが誉(ほまれ)等、そんなことはあり得てはならないのだ。
常々、そう言っていた…
殺す相手は選べとも言っていた…
父上は知っていたのだ…そのなれの果てを…終わらぬ因果を…
終わりなき闘争しか呼ばないことを……
正能「はい…はい!!
きっと…!
きっと、生き延びてみせますっ!!」涙
しかし…その涙の誓いは、果たされることはなかった……