第70章 新天地
フィン「数多の人が複雑に絡み合っているからね…」
ベッド上に腰掛けたまま距離を僅かに置き、微笑みかけながらその左頬を右手で優しく撫でた。
ケイト「私が思うにさ…
全員が正義で…悪はないんだと思う」
フィン「?それは一体…?」
ケイト「皆…各々、各々にしか体験できない人生を歩んでいて…
皆が皆、違った価値観を抱いていて、許す許さないの匙加減、基準がある。
もし犯罪行為へ走るでも、今するに至るまでの経緯が必ずあって、譲れないものも、事情もある。
それは…他人があるから、違った人があるから、悪と感じるのだと思う。
人がいなければ…
被害を与えられるものが、心も、感情も、抱かないものであれば…
魂も抱かない虚ろなものならば……
それは、被害を受けているだなんて…決して言わないし感じないだろう…」
核心をついた言葉に、愕然とする。
瞠目し、目が離せないまま、気付けばケイトの目を見据え続けていた…
しかしその眼はどこまでも真っ直ぐで、しっかりと物事の本筋を見極めようと、奮闘しているようだった…
ケイト「そして……正義を語るものは…いつまでも、被害を与えていること。
お互い様ということにさえ、自らもまた悪だということにも、自らに負けた相手のみ悪と言及し傷付け続けていることにも、気付けないだろう…
悪がないと言ったのは………
人が存在する限り、悪は無くならない。
全員が悪であり、お互い様…
すなわち、無いのも同然という意味だ」
フィン「………なるほど…そういう観点もあるね」
ケイト「お互い、互いに配慮し合い、譲歩し合えば事足りる、それで済む話。
だが、至らぬ点というのは誰にでもある。
少なくとも、本人にとっては至る所は全てやれていても、そう感じない人は必ず存在する。
譲歩の形一つでも、人に応じて在って欲しいと望む形も何もかもが異なるし、それに合うとは限らない。
知らぬ内、気付かぬ内に、自ずと傷付けている可能性は無にはならない。
悪というのは…裁きを与える為の免罪符であり、何を裁きとして与えても決して罪にはならないという暴虐に過ぎない。
なら…裁きとは、何だ?正義とは、何だ?
結局は与えるものの、本人の生き方によるものだと私は感じた。
だから…私はこれまで、同類になるまいと…仕返しも何も自ら与えないようにしてきた」