第69章 文明開化
自分の命だけは違う?
かけがえのない命ではない?
そんなはずはないだろう!
気付けば、走らされていた――
誰からともなく、我先にと…
彼女を、一人で逝かせまいとした…
自らの死を願うものにさえ、笑ってその幸せを願う馬鹿を、愚突猛進する彼女を、決してひとりにさせまいとした……
ひとりでどこか、手の届かない遠くへいってしまう予感がした。
言い知れようのない不安に突き動かされていく内
いつしか…目が離せない存在となっていた。
その背で語る、温かな正義に…絶対に死なせてはならないと強く思わされた。
だからこそ…僕等もまた、神に至った。
放っておけば、無理をしてでも何とかしようと足掻く。
一週間寝たきりになろうが、どんな重傷を負おうが、そのことへ一言も文句も言わず、笑って、よかったとだけ零す。
しかもその見返りに何も求めてはいない…
働きに対する対価を求めてはいない…
求めるとすれば…人の温もり、信頼、幸福だろう。
悪辣過ぎた扱いばかりを受け続けてきたせいだ。
反面教師である反面、生かしてもらったことには変わりない。
感情を抱く、心を抱く家族として…守り抜くことを選んだ。
たとえ剣を幾度向けられ、刺されようとも…
何故こう在れるのかさえ分からぬままだ。僕には未だ…
かけがえのない命…そう彼女は人のことばかり言うが、彼女のもまたそうだと僕は言いたかった。
今でこそきちんと伝わっている。
だが…それまでは、到底見ていられなかった。
自分が死ぬことを恐れていない。
本当は戦うのが嫌いなのに…武を磨くことを選ばざるを得なかった。
力なきものは、力あるものに蹂躙されることを、幼き時より…産まれたその時から、実父の横暴に振り回され続け、蔑ろにされ続けた経験から、身を持ってわかっている。
その結果が…恩恵無しで、Lv.6のアイズを倒すという結果なのだろう。
だが違う、そうではない…
違うだろう、と何度も言った。
頼れと言った。
自らを蔑ろにするなと、軽視するなと、何度も何度も言って、叱って、怒って、ようやく…段々と慣れてきた。
馴染んできたとも言っていいほどには、軽視しなくなり…
そして…
己を大事に出来るようにまでなりつつあった。
ありのままを出し、天真爛漫な姿を見せ、明け透けに笑えるようにまで…