第69章 文明開化
ケイトは昔、一つの疑問からこう言っていた。
ケイト「相手を気遣わずに求めるのって、赤子と何が違うの?
赤子みたいに余裕がなかったり、言葉にできなかったり、何もできないんならいざ知らず…
相手のことを考えずに、何でも思い通りにして、己の気分や都合で傷付けて、人のせいにして壊して、振り回して、何がしたいの?
満たされないよ」きっぱり
フィン「それは人というか魂の本質が見えている君だからわかることだろう;」
ケイト「何でもかんでも思い通りに進ませた所で何も残らない。
一番何かを埋めてくれるのは人であり、愛だ。
憎しみでは、腹は膨れない。
いつまで経っても満たされない。満たされることはないんだよ…
人の心は…愛でしか、満たされないものだ。
他を顧みず欲に身を任せた所で残るものは怨嗟と災禍だけ。
本質となる心はいつまで経っても満たされず、ただ一時満たされる為だけに延々に続けることになるだろう。
その先には、破滅しかない。待たない。
人の幸せって…何だ?
何故…あれほどに、欲深に求められる…?
何故、隣にいてくれる存在に、生者に満足できず、数多を求める?
大事な人が生き、共に居れるだけで満足できない?
何故――他を傷付けて、殺して、壊してまで得たものを手に、幸せだと笑える?」
彼女には理解など出来なかった。
生まれ落ち、育った環境があれだったが故に…
実母の愛、温もりだけが唯一の支えだった。
たとえ実父のせいで苛烈な仕打ちを受け、乱され、心も意思も必要ない、操り人形にされたとしても…
ただ…大事な人が、生きてさえいれば……
「あの時…殺さないでくれてありがとう。
愛している」
その想いを伝える為、背で語った。
私はヘレイオス街の誰も傷付けたりはしないと…
階層主とヘレイオス街の人々の間に割って入り、血反吐を吐こうが意識を強引に留め、3日3晩一睡も飲食もせず戦い続けた。
だが、その想いは伝わらなかった―
愛をいくら向けようとも、言葉を発せないという特殊な環境事情を抱えた障害では…
決して、伝わることさえもないまま…オラリオへ戻るまで彼女のイメージを下げようと画策されるばかり…
帰った後…
常人ではなし得ない功績をあげたとわかった途端、掌返し王へ押し上げようとされる始末…
穢れ以外知る由もなかった――