第68章 騒動
よっぽど辛いことがあったんだろう…
それは想像を絶する。
ただでさえ…誰一人として味方がいない状態、誰一人として理解せず助けようともしない環境、傷付けるものしかおらず孤立無援かつ四面楚歌の環境であっても…貶めたり傷付け続けてきた者達への悪口も言わず、風当たりも変えない。
それが彼女のしてきた言動であり、全てとも言える。
あれだけ悲惨かつ凄惨な出来事を受け続けてもなお、決して仕返さず、同じになるまいと守り続けてきた『人としての品性』『尊厳』。
その時の自分を許せないから決して人へはしない、と『頑』として譲らない『信念』『飾らない態度』。
自分本位だと嘲られ笑われてもなお、その根本にある『相手のことを考え、気持ちを重んじる心』。
それを破ってまで一人の人のみへの恨み言を言う、その事態そのものが異常だった。
まあ、ただでさえ常人では廃人となるか自殺するか、よしんば生き永らえても狂ってしまう。
その過去に加え、あれほどのことがあっても、変わらず笑顔で僕の隣でいてくれる。
それ自体が、尚更に恨み言を言うことの価値を高く上げていた。
一貫し、彼女の原動力は全て『相手に同じ想いをさせないこと、幸せを願うこと』。
しかし、その綺麗な心は決して通じはしない。
変に勘繰られ、醜く歪められ、歪曲され脚色されたそれこそが事実だと言われる始末…
どれほど大事に想っていようが、相手には関係ない。
好き嫌いこそが全てであり、如何様にも事実でさえも捻じ曲げられ、相手『のみ』にとって優位に立とうとばかりされる。
相手にとっては自分こそが正しく、他は全て関係なくおまけに過ぎない。
色々な正しさ、考え、経緯あってのそれであっても、己だけよくて人はよくないという人間は多い。
非常に多くいる、この世の大部分を占めていると言ってもいいぐらいには…
多様性を認めず、己にとってどう感じるかを主に置き、合わない存在を排他し近付けまいとする。
ミクロ視点で目先の利益を追う悪人や無能。そういったタイプは、ケイトは合わない。蛇蝎の如く嫌われるだろう。
と言っても、決め付けなくとも別の人が嫌うこともあるだろう。
あくまで相性的に合わない人物像を挙げただけに過ぎない。
人間、感性が合わない存在を嫌うものだ。
が…ケイト本人はどう思われようが嫌おうが関係なく、幸せを願う馬鹿だ。