第67章 躍進
「息子よ…もう多くは語らん。
人として、誇れる己となれ。
自分の意志で考え、見、学び、経験し、この世界で、数多の時代で、唯一となる、大いなる『個』となれ」
「…はい!」
小さな子供は、真剣な表情で最後までしっかりと聞き入り、大きく頷いた。
これは余談ではあるが…
言ってたほぼほぼ全てがUnlimitedの最新刊にある文面だった。
最後のに関しては、ケイトがアルとディに言い含める際に言い聞かせた言葉を言い換えたものであり、最新刊の最後にはこう記されている。
私は…『私が人に掛ける迷惑』を許せなかった。
そう育てられてきた。
男尊女卑の風潮で育った実父からは「されてきたから妻や子にしてやるんだ」と言われ、感情を吐露すれば思い通りに動けと求められ、涙を見せれば殴られ、僅かでも意にそぐわなければ蹴られ、己の感情こそが全てであり正しいと所有物(物言わぬもの)扱いされ、胸を触られもした、股間を殴られもした、7歳の夏に肛門を犯されもした。
言い上げていけばキリがないほど己という個を持つことも抱くことすらも否定され、ただただ暴力と暴言で支配され、搾取され、求められるだけだった。
転機は9歳の夏、周囲も周囲で同様だった。
いじめられ、家の件も含めて余裕も無くし、助けてと言えば信じられず、歩み寄るものもいなければ傷付けるもの以外誰一人としていなかった。疑われ、在りもしないことも言われた。
求めるだけ無駄だと、悲鳴を上げることも、涙を流すことも、感情を出すことも、全てが無意味だと思い知らされた。
見せること自体がいけないことだと、長い期間のそれらの暴虐により思い知らされた。
対人恐怖症、男性恐怖症を患い、自分から歩み寄ることも話し掛けることも、何かすることさえも恐怖の対象となった。
少なくとも…家で主導権を握る実父、外で主導権を握る周囲は全てそういうものだった。
実母も、余裕がなく、しんどいことを打ち明ければ、自分はしんどくないのかと言われることが多かった。
実姉も、余裕がなさそうなのが見て取れて、言い出せずに相談すらも出来ずにいた。
それが…私なりの大事に仕方だった。
語らないがばかりに周囲に誤解された。
だがそれでいい…一番大事な人(母と姉)に、知ってさえもらえていればそれでよかった。
誰しもが経緯がある…そうなるに至る何かが必ずある…