第66章 穢れ
フィアナ「ケイトさん…あなたは、いつ崩れるかもわからない状況で育った。
平穏等ほぼほぼ限られており、あったとしても必ず父や母や姉の気分次第でいつか崩されてしまう。
だからこそ…常に、そこにある恵みに目を向け、感謝できるようになった。どんな悪状況であっても…
その素地がなければ、あなたは生き残れなかった。それぐらいに、あなたが受け続けてきたそれらは苛烈なものでした。
暴言や暴力に返そうと仕掛ける自分を戒め、してしまえば謝り、常日頃そうなるまいと努力し続けた。
そればかりか常に恵まれている点に目を向け、感謝し、出来ることはないかと意識し、働きかけた。孝行として、出来る範囲のことを…
助けられないから…誰も助けてくれないから…家族を助ける。
家族しかいなかった。
ですが彼は違う。
父から与え続けられている金、家、13年間暗殺者0の平穏
母から与え続けられている倹約や手伝いをしなくていいという姿勢、穏やかで温かな愛情、家事育児に毎日奔走
父を侮辱し、罵倒し、下に見、力になろう等とは思いもしない。不足以外何も見はしない。
彼が父へ返したのは…ただ認めるということだけ。常日頃から与えられ続けている何気ない『支え』に対しての感謝ではない。
手痛く返されることは一度としてないからとやりたい放題。
傲慢にもほどがある。
彼は…罪を犯し過ぎた。
いつ壊れるとも知らない『脆く儚い』それらを、全てあって当然とした。
知ろうともせず、力にもなろうともせず、ただただ貪り、笑い、失わず当然という意識や認識のまま、死も殺される哀しみも痛みも絶望らしい絶望さえも知らず、「俺の死ぬ気は絶望からじゃない。希望から生まれる」「死ぬ気の強さは、覚悟の強さだ!!」と宣う始末。
日常を続ける為だけに、他の平穏をいくらでもぶち破り踏み付けにし続けた。
居場所のみを守り、その為になら全てを無視した。
敵の境遇も傷も知った後もなお、己の居場所のみを守り、他の傷に塩を塗ることをし続けているという罪悪感も一切抱かなかった。
殺された記憶があるものが力を貸す、それを受けてもなお同盟には反対、対面しても信じてもいいのかという自分の都合ばかりで殺した罪悪感など欠片も抱かない、フラッシュバックも起こさない。
それが――優しさですか?
彼の優しさは全て…自分の平和を守る為だけのものです」