第10章 準備と発明
部屋に招き入れて椅子に座らせた後、机を挟んだ状態で僕も座り
紅茶を淹れて机の上に置いて差し出してから、少しずつ話し出した。
小人族は人類の中で最も『脆弱な種族』と呼ばれていた。
身体能力はヒューマンにも劣り、エルフやドワーフのように魔法や力に優れているわけでもない。アマゾネスのような誇れる戦闘技術も持ち合わせておらず、獣人のように五感に秀でてもいない。
どんな種族の者よりも身体が小さい小人族の唯一の武器は、『勇気』だった。
小人族はヒューマンや他の亜人と比べ、可愛らしくもある小さな外見も相まって、種族としての潜在能力は最も劣っていると言われている。
事実、遥か昔から現代にかけて、小人族が世界に轟かせた武勇伝は圧倒的に少ない。
そんな中、『古代』に戦場の槍として幾多もの偉烈を成し遂げた彼の騎士団は小人族の最初で最後の栄光であり、誇りだった。
一族の拠り所として『擬神化』されるほどに。
僕も数多くの英雄譚の中で、彼等彼女等の活躍を目にしてきたほどだ。
憧れを抱いていたという方が正しいのかもしれない。
けどその『古代』の節目、本物の神様達が降臨した『神時代』の到来によって『フィアナ』信仰は一気に廃れた。
下界に降りてきた神様達の中に、小人族の崇拝してきた女神の姿はなかった。
心の拠り所を失った小人族は、止めを刺されたかのように加速度的に落ちぶれ、現在に至るまで腐りかけている状況だ。
その唯一無二だった取り柄、『勇気』さえも失われて久しい。
今も落ちぶれている小人族には光が必要だ。女神信仰に代わる、新たな一族の希望が。
そうなる為に、一族の再興の為にオラリオに来て冒険者になった。
名声を手に入れ、同族達の旗頭になる為に。
だが、それだけでは駄目だ。
一瞬の栄光では一族を奮い立たせるには至らない。
希望の光は長く在り続け、小人族達を照らし続けなければならない。
つまり、次代に続く後継者が必要だ。
そしてそれは【勇者】(僕)の血を受け継いでいることが望ましい。
隣に立つ者にもまた、それこそ子に受け継がれるような「一族を動かすに足る『勇気』」が求められる。