第60章 穏やかな日常
鬼「皆、何かしら悩みを抱えるが…てめえは別だ。
周囲に恵まれ、特に悩みも葛藤も苦悩も無く…平穏に過ごした。
そればかりか、その平穏が犠牲あってのものだってことにさえ気付けなかった。
挙句の果てにあって当然と捉え、それを支える側に守ろうと、手伝おうとすら…役割を担おうとさえしなかった。
只管に優しい周囲や環境に甘え、努力せず、耳も傾けず、偏見のまま無視した。
ヒントは沢山与えられたのに、やらないという選択肢を自ら取った。
それが――お前の罪だ」
善人の認識を有していながら、悪人殺しを頑として悪と捉えないそれ。
それらが異常なことであることに、彼は気付かなかった。
地獄で責め続けられること、それらの体感は普通でのそれよりも遥かに伸びていた。
たった2日、しかし…体感では500年が過ぎていた。
沢田「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
鬼「ごめんなさいって言えばやらなかったのか?てめえは。
悩みの末の言動なんだよ。
それを取った白蘭を殺しておいて?そんな言動に突っ走るそれも聞こうともしねえで?
ごめんなさいで赦される罪だと思ってんのか?
何の為にあれから長年生き続けた?
何様のつもりだてめえは」
沢田「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
鬼「うげえええ;
おーい、鬼神(おにがみ)様!
こいつ、気持ちわりいよ!
未だ被害者意識が抜けてねえ。繰り返させないように頑張ろうともしねえ。
こんなんじゃ快楽殺人者の方がよっぽどマシだ!
あいつらはまだ常識を叩き直せばすぐなんとかなる!
やり甲斐もある!!
だがこいつは違う!
常識とかも有していながらああ踏み切れるんだぞ?
悪だと感じてねえんだぞ?
償いも努力も無しで済ますんだぞ?
それをやり続けることに罪悪感も何も感じねえ、苦悩もしねえし葛藤もしねえ!
こんなに見るだけで吐いちまう澄んだ魂は見たことがねえ!!」
鬼神(おにがみ)とは、鬼神とは別の存在…
地獄での鬼達の上司であり…
鬼達を統括し、罪を削いで送り出す責任者でもある。
すなわち最終段階に当たる…地獄落ちとなった罪人達の罪を削ぎ、転生の許可を出す役割を担っている。
だが魂から反省し、同じ過ちを繰り返さないようにしてなければダメという厳しいものだ。
鬼神様が聞き見やる中、沢田は否定した。