第58章 堕天
言いかけた言葉…飲み込みかけた言葉…
震えて声にならずに、全身を震わせるそれは…静かに、恐怖と怯えを表していた。
掠れた声で…咳喘息を今にもしそうな程の切迫した表情で俯くケイトに…
固く握り締めた左拳をそっと両手で包み込むように取った。
ケイト「!!」ビクゥッ!!!
その瞬間、身を震わせながら怯えた眼を向けてきた。
その双眸を見つめながら、はっきりと伝えた。
フィン「しない」
ケイト「……………
何で……そんなこと…言い切れるんだよ」
フィン「…そうだね…
強いて言うなら…
仕事と家庭は、分けるものだろう?」
ケイト「でも…感情は別で!
フィン「ああ、そうだね」
ケイト「!」瞠目
フィン「どうしようもない感情に囚われれば、暴走もしそうになるだろう。
そういう時には…クッションを殴り付ける、のも教育に悪いから無しにするとして……
そうだね…トランプゲームでも一緒にしようか?」
ケイト「それでも…負けたら、またイライラが」俯
フィン「ほら」
ケイト「へ?」きょとん
そっ←ケイトの頬へ僕の右掌を当てる
フィン「そうやって…人の気持ちを第一に想ってくれている。
何よりも慮ってくれる。
それが…何より嬉しい(なで)
たとえ切羽詰まっていようが、多分その時だけ押さえ切れない感情を叫んで終わりだろう?
決して手を出したりはしない。傷付けようとしたりもね…
その証拠に…どれほどの闇に飲まれようと…君は、傷付けないことを選択した。
殺すことはいつでもできるのに…君は…嫌だと、確固たる意志で拒絶した。
そりゃあ…押さえ切れずに暴れたくなる日もあるだろう…
でも…君は、自分の勝手で…自分の都合で振り回そうとはしないだろう?
それと同じように…僕にも……
僕なりの意志がある。
僕は…君を守りたいから結婚したいと願った。
君の笑う顔も、居場所も…幸せも…その全てを、守りたいからだ。
もしゲームをして、たとえ負けたとしても…
その喜ぶ顔を見れば…疲れも怒りも全て吹き飛んでしまう。
ただそれだけで、泣きそうになる。
君の幸せそうな顔を見るだけで…それほど…幸せになるんだ。
守りたかったものは、ちゃんとここにあると…
まだ失ってはいないと…強く実感できる…
喪ったからこそ…余計に」