第56章 プール大会
動揺するのも、とてもよくわかる。
第一に…僕も、最初の頃は動揺した。
何か裏があるのではないか、後々弱みに付け込む気か、下心があるのではないだろうか?
この世界は理不尽でできている、勝手な人間など無数に多い。
優しい方がいいなど、綺麗事でしかない。表面上だけで取り繕う人間などざらにいる。
だが…ケイトは、彼女だけは…それまで出会ってきたどの人間とも違った。
もし誰かが困っていた場合…普通の人なら適当に返すだろう。
己のことの方が大事、他人の苦痛も感情も…寄り添う余裕が無ければ蔑ろにされて当然。
だが…彼女は、一緒に考え…対応してくれた。
寄り添い、共に問題へ向き合い…自らよりも人を、その気持ちを何よりも優先した。
ここまで自分の事みたいに考えてくれる人などいただろうか…
人の気持ちをこんなに理解できる人が、かつていただろうか……
尊敬の念を抱いていた。
どれほどの目に遭わされようとも、そのことをしてきた者達であってもなお…
それを迷わず救いに行こうと単騎で走れるケイトだから……
ケイトは…人の苦痛に、気持ちに寄り添い過ぎてしまう。
それも幼い頃からのDVに加え、同時期での学校でのいじめ…誰も助けてくれない環境…寄り添う者も居ない、理解者もいない……
それらの苦痛に併せ、感情が壊れても、心が壊れても…
それを怨むよりも…同じ苦痛を与えたくないと、心から…魂から願える優しい人だ。
ものを言うにも行動するにも、まず相手の立場に立って考えてしまう。
どう感じるのか…自分が良くても相手が本当にそれでいいのか…
本人は気付いていないが…ケイトは、いい方向に人を変えている。
かく言う僕も、優しくありたいと思うようになった…
フレイヤも当初ならば何をしてでも取ろうとしていただろうが、強硬姿勢を取らずに見守ってくれている。
だからこそ…ああなりたい。理屈でなく、心から何度でも願ってしまう。
自ら作り上げた「人工の英雄」の殻を破り
天秤を壊し、どちらも救う為に迷わず実行でき、自然と救おうとする「天然の英雄」でもなく…
世界ごと全て滅べと今なお叫ぶ果ての無い闇を抱え、飲まれても律し…
人の気持ちを第一とし、寄り添い、是が非でも救う……
そんな彼女のような『真の英雄』になりたい、彼女の英雄になりたいと――