第56章 プール大会
出ない声を必死に絞り、助けを訴えかけた。
だが返ってきたのは…力を貸すでもなく、愚痴を聞くでもなく…
ほら吹き呼ばわりし、いじめ、生みの父と同じことをする者達以外おらず、現れることさえもなかった……
信頼も縋りも、何も許されることも無いまま…精霊しかないまま、時は過ぎていった。
度重なる苦渋を人為的になめさせられ続ける日常を10年以上経て…
彼女は自らの幸せを望む心も――感情までもを喪った。
自らの心による、精神防衛機能も相まったことで記憶全てが無くなった。
そして…そのお陰で、ケイトを気遣い一体となったノアールが心の表層に出てこれた。
悲鳴しか上げ続けたことが無い、そのような環境でもなお…あの真っ直ぐさは異常だとも思ってた。
だが…その芯があるからこそ、耐え切れた。
そして…僕達と出会えた。
ただ……異様なまでに、自らの死へは無頓着だという点だけは、どうにかしたかった。
それでも…生みの家族以外からされたことのない優しく接される行為に、戸惑いながらも…
徐々に、喜びを見せるようになり…ようやく、大事にしようとできるようにはなってきた。
彼女の目には…まともな人さえ、向き合ってくれる人さえ一人としていない現実しか映らなかった。
そんな…自らの闇に飲み込まれかけていた。
当時の恐怖、絶望…話してもなお受け入れず否定し、あまつさえほら吹き呼ばわりされいじめられ続けてきた現実――
様々な葛藤も、闇も、負の念も、何もかもが…
彼女を取り込もうとするかの如く精神を覆い、蝕みかけているのが見えた。
不意に、ケイトがそれ(闇)を自らの感情ごと殺そうとする光景が見えた。
その次の瞬間…僕は力(光)を送り込んだ。
それはほんの些細なこと…僕達を、僕達と育ての家族と過ごした幸せな日常を思い出させること――
たったそれだけの光で…辛うじて持ち直せたのが見えた。
ケイト「ありがとう…フィン^^
ただいま//」ぎゅうっ
フィン「…見つかってしまった、か^^//;」苦笑&ぎゅうっ
愛しい目を向け、全身で嬉しい、愛しいという感情を表現するかのように
抱き締めてぶつけてくる彼女を…僕もまた同様に嬉しく、愛しく感じて抱き締めた。
心底から惚れた彼女は、在り方も心も綺麗で…愛しさが増す一方だった――